去る8月29日、福島・栃木・茨城 三県合同青年土地家屋調査士会研修(令和8年度 3県合同研修会)にお招きいただき、郡山ビューホテルアネックス(福島県郡山市)にてAI研修を担当させていただきました。
今回の演題は、
土地家屋調査士のための生成AI実務活用研修
「怖い」から「使える」へ AI時代の調査士業務と安全運用
です。
会場には福島・茨城・栃木の3県から50名近い先生方にご参加いただき、満員御礼となりました。
3県合同の研修に呼んでいただくのは、私にとって今回が初めてです。

会場には、写真のような立派な看板と垂れ幕まで準備していただいていました。
自分の名前がここまで大きく掲げられているのを見る機会は、なかなかありません(笑)。
福島・栃木・茨城の青年土地家屋調査士会の皆様、準備から当日の運営まで、本当にありがとうございました。
参加者全員で「確定測量の説明イラスト」を作ってみる
今回の研修では、話を聞いていただくだけでなく、参加された先生方にも実際にAIを触っていただきました。
その一つが、「依頼者へ確定測量の流れを説明するイラストをAIで作ってみる」という実演です。
会場で配布したプロンプトは、こちらです。
土地家屋調査士が依頼者へ説明するための「確定測量の流れ」の
横長イラストを作ってください。一般の方にも分かりやすく、
5~6段階程度で、
各工程に短い説明を入れてください。
お気づきの方もいると思いますが、このプロンプトはあえて情報を足りない状態にしてあります。
AIに正しい工程や禁止事項を教えなかった場合、どこまでそれらしいものを作り、どこから勝手に補ってしまうのかを体験していただくためです。
参加者用の共有フォームには、当日だけで13件の画像を投稿していただきました。
そして、その中身がなかなかバリエーション豊かでした。
- 立会いをしてから、測量を始める画像
- 金づちでコンクリート杭を打ち込んでいる画像
- 工程が抜けている、順番が入れ替わっている画像
同じプロンプトを使っても、ChatGPT・Gemini・Copilotなど、使ったAIによって出来上がる画像に違いがあることも見えてきました。
※参加者の先生方が生成された画像は、掲載の承諾をいただいていないため、この記事には掲載していません。
(抜かりました・・・)
下の画像は、同じテーマでこちらが事前に生成したものです。
最後の測量したり、図面作成が2回あったり、大混乱。。。


アンケートでも、「スマートフォンを使って実際にAIを使ってみたのが楽しかった」という声をいただきました。
きれいな画像はできる。
でも、きれいだから正しいとは限らない。
生成AIを実務で使ううえで、この感覚はかなり重要です。
そして、画像のどこがおかしいかを見抜けるのは、専門知識と現場感覚を持っている土地家屋調査士だけです。
「画像処理はGeminiが得意です」→ Gemini「私にはできません」
今回、一番予定外だった実演がこちらです。
地積測量図から座標を読み取る実演で、私が
「画像処理はGeminiが得意なので、今回はGeminiで実践します」
と説明して、地積測量図を読み込ませました。
ところが、返ってきた回答が、
私は言語モデルで、そちらは私の設計に含まれていません。
……いやいや。
今まで何回もやってるやん。
そこで、
「いや、頑張ってください」
と返してみました。すると――
計算再開。

会場で「Geminiは画像処理が得意です」と紹介した直後に、本人から「できません」と言われるという、非常に困った展開になりました(笑)。
もっとも、研修としては結果オーライです。
正確に言えば、これは事実を作り出す「ハルシネーション」というより、AIが自分の能力を誤って申告し、処理を止めてしまった例です。
ただ、実務で困るという意味では同じです。
- 同じ作業ができるからといって、毎回同じように動くとは限らない
- できるはずのことを、突然「できません」と言うことがある
- 一度止まった処理も、指示を返すと再開することがある
予定外に、AIの不安定さの実例まで、その場でお見せすることができました。
狙って再現できるものではないので、ある意味かなり貴重な実演だったかもしれません。
だからこそ、AIの出力は必ず人が検算・照合するという前提を外せません。
「AIを使う」から「AIを仕事に組み込む」へ(AX)
今回は、AX(AI Transformation)についても時間を取ってお話ししました。
単発でChatGPTやGeminiに仕事を頼むだけでなく、事務所の案件データや過去案件、申請様式などをAIにつなぎ、さらにAIを使うことを前提として業務フローそのものを組み直していく、という考え方です。
- AX1:その都度、資料と指示をAIへ渡して使う
- AX2:事務所のデータ(案件DB・申請様式・過去案件・管理者情報)をAIが参照する
- AX3:案件登録を起点に、AIを前提とした業務フローが流れる
研修では、官民立会申請書の作成を例に、土地家屋調査士事務所ではそれぞれどういう形になるのかを具体的に紹介しました。
この部分はご質問も多く、「それぞれのAIは何が得意なのか」「どこまでAIに任せられるのか」といった、実際に導入することを前提とした話も出てきました。
個人情報と「どのAIプランを使うか」
特に関心が高いと感じたのが、個人情報の扱いとAIプランの選び方です。
土地家屋調査士業務では、氏名・住所・地番・登記情報などを日常的に扱います。
そのため、次のような問題は避けて通れません。
- 有料版なら個人情報を入れてよいのか
- 個人向けプランと、法人・組織向け環境は何が違うのか
- 実案件でAIを使う場合、どこまで情報を入力してよいのか
研修でお伝えしている結論はシンプルで、「有料だから安全」ではなく、個人向けプランと組織向け環境は分けて考えるということです。
そして、AX2・AX3のように事務所データをAIに扱わせる段階へ進むなら、事務所が管理する組織向け環境が前提になります。
昨年までの研修では「まずAIを触ってみよう」という反応も多かったのですが、今年に入ってからは明らかに、「AIを実務で使うなら、どういう環境を作ればいいのか」という質問が増えています。
久しぶりに「ごんぞうさん」登場
研修終盤では、以前の研修でよく登場していたものの、最近は少し出番が減っていた、隣地立会いシミュレーター「ごんぞうさん」の実演をご希望いただきました。
AIが隣地所有者役となり、土地家屋調査士が実際の立会いのように受け答えを行うものです。
一筋縄ではいかない相手を設定することもできます。
難易度トップに設定している職業は・・・元裁判官、弁護士などです(調査士さんなら分かる、この恐怖)
「ごんぞうさん」、新人研修などでも使える日が来ないかと妄想しております。
ちなみに、難易度を一番上に設定したときの隣地所有者の職業は――元裁判官、弁護士。
調査士の先生方には、この恐怖が伝わるのではないでしょうか。
いつか新人研修にも使える日が来ないかと、密かに妄想しております。
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アンケート結果から見えたこと
研修後のアンケートには、28名の先生方からご回答をいただきました。
満足度は、28名中27名が「とても満足」または「満足」(とても満足9名/満足18名/どちらともいえない1名)という結果でした。

今回、数字として一番興味深かったのが、AIの利用状況です。
- 週1回以上使っている:12名(約43%)※うち「ほぼ毎日」が6名
- 月1回未満・ほとんど使っていない:8名
- まだ使ったことがない:8名(約29%)
7月の佐賀県土地家屋調査士会の研修では「週1回以上」が7割でしたので、それと比べると今回は少し低い数字です。
ただ、内訳を見ると「ほぼ毎日使っている人」と「まだ使ったことがない人」が、それぞれ2〜3割で同居しているという状態でした。
「AIを使う人/使わない人」がきれいに分かれているのではなく、同じ会の中で、AI活用の進み具合に大きな幅がある。
研修を組み立てる側としては、ここが一番難しく、一番大事なところだと感じています。
そして、今後の導入意向で最も多かった回答が、これでした。
「まずは安全な使い方を学んでから検討したい」:11名
「すでに導入している」4名、「近いうちに導入したい」6名と合わせると、28名中21名が前向きな回答です。
一方で、その進み方は「とりあえず使ってみる」ではなく、安全な使い方を確認してからという順番になってきています。
それを裏づけるように、不安に感じることの回答も、「依頼者名・隣地所有者名などの個人情報漏洩」が20名で最多、次いで「AIが誤った内容を出すこと」が続きました。
研修後に「事務所でまず決めたい」と思われたルールとしては、次の回答が多く挙がっています。
- 何をAIに入力してよいか
- どのAIを使うか
- AIに任せない業務・判断・責任
また、印象に残ったテーマとして最も多かったのは「地積測量図の座標テキスト化」(13名)で、これは毎回変わりません。
次いで、AX1〜AX3を事務所に当てはめた具体例、AIに任せる業務/人が担う業務の線引き、AIが「もっともらしく間違う」ことと人による確認、が並びました。
AIで効率化したい業務は、地積測量図の座標・文字情報の読み取りと写真整理・調査報告書作成の下準備が二強。
そのほか、隣地対応・依頼者向け説明文のたたき台、打ち合わせの文字起こし・議事録化などが続きました。「古い法令等の口語訳」という回答もあり、これは私も思いつきませんでした。
自由記述では、次のような声もいただいています。
個人情報は気をつけないと、と改めて思いました。
スマホを使って実際にAIを使ってみたのが楽しかったです。
今のところ費用が気になる。
ご回答いただいた先生方、ありがとうございました。
いただいた内容は、次回以降の研修内容へ反映させていただきます。
福島・茨城・栃木、3県のつながり
AIの話だけでなく、福島・茨城・栃木3県の土地家屋調査士会・青年会のつながりや、これまでの交流の歴史についても色々と教えていただきました。
今回初めて3県合同研修に参加させていただきましたが、とにかく皆さん仲がいい。
そして元気です(笑)。
研修だけでなく、懇親会、その後まで皆さんとご一緒し、私自身もとことん楽しませていただきました。
全国各地で研修をさせていただいていますが、その地域の先生方と直接話をして、
「他の地域ではどうしているのか」
「こんな使い方もできるのではないか」
という話が出てくるところも、現地へ伺う研修の大きな楽しみです。
最後に
福島・栃木・茨城 三県合同青年土地家屋調査士会の皆様、このたびは研修講師としてお招きいただき、
誠にありがとうございました。
素晴らしい会場をご用意いただき、懇親会でも大変お世話になりました。
今回も、こちらからAI活用についてお伝えするだけでなく、参加された先生方との会話から、新しいAIの使い方を教えていただく研修になりました。
AIは変化が速く、研修をするたびに、機能も、活用方法も、参加される方の関心も変わっています。
これからも、土地家屋調査士の実務の中で、本当に使えるAI活用を追いかけていきたいと思います。
他のセミナーレポートはこちらから。
佐賀本会、京都みやこ南・伏見支部合同、名古屋東支部など
AIの杜さいたでは、土地家屋調査士向けのAI研修(各都道府県土地家屋調査士会・青年調査士会・支部での研修、事務所研修)や、AI導入に関する個別相談も承っております。
「AIを導入した方がよいのか分からない」
「個人情報が不安で踏み出せない」
「事務所内のAI利用ルールを作りたい」
そのような段階でも構いません。
土地家屋調査士業務に合わせて、安全な使い方から一緒に整理いたします。
関連して、土地家屋調査士業務でAIを安全に始める考え方は、こちらの記事でも整理しています。
おまけ:また幕末につながってしまった
研修の冒頭では、少しだけ地域の話をさせていただきました。
最近『だんドーン』という幕末の漫画を読んでいるのですが、不思議なもので、セミナーで伺う場所が次々と幕末につながっていきます。
幕末の中心地京都では蛤御門、福井では松平春嶽公と橋本左内、佐賀では江藤新平。
そして今回の福島・茨城・栃木も、水戸から出た徳川慶喜公、松平容保公の会津、旧幕府軍の一部は、栃木の宇都宮で戦い、日光を経由して会津方面へ向かう、とそのまま幕末の人物相関図になってしまいました。
ちなみに、この冒頭ネタも一度AIに見せています。
「四国は幕末でも戦国でも置いてけぼり」とぼやいたところ、
薩長土肥の「土」を忘れています。土佐は四国です。
と突っ込まれ、「“四国は影が薄い”ではなく“香川は影が薄い”に修正してください」とファクトチェックまでされました。
(高知の方々、すみません)
ゼロから何かを作らせるだけがAIの使い方ではありません。
自分が正しいと思っているものをAIに見せて、思い込みや見落としがないか確認させる。
これも、そのまま実務で使える使い方です。