ChatGPTやGeminiを導入し、メールや送付状、要約に使える職員が増えても、事務所固有のAI活用が広がるとは限りません。
支援先の社内アンケートでは、AIを頻繁に使い、登記や測量の実務をよく知る人でも、「次にどの仕事へ使えばよいか分からない」という回答は散見されました。
一方、自分の課題をAIへ持ち込み、失敗しながらも試した人は、半年経過したころからスプレッドシートの自動処理や業務用プログラムなど、自分の仕事に合う仕組みへ活用を広げています。
AI導入のキーパーソンは、単にAIを使える人ではありません。
AI化できる仕事を探し、AIと対話しながら試せる人です。
この記事では、AIを使える人と、新しいAI活用方法を生み出せる人の違いを、支援先のアンケートと実例から考えます。
AIを使えても、事務所のAI活用が広がるとは限らない
AIの利用回数が増えることと、新しい活用方法が生まれることは別です。
支援先の社内アンケートでは当初、ChatGPTを毎日使っている人や、週に20回ほど使っている人もいました。
メール、送付状、社内文書、要約、検索、業務相談など、利用場面も一つではありません。
それでも、なかなか新しい業務への応用まで進みませんでした。
ある方は、AIを日常的に使いながらも、時間短縮につながる作業が何なのか分からないと回答しています。
別の方は、AIの利用回数自体は多いものの、新しい自動化のシナリオを考えることに難しさを感じていました。
司法書士や土地家屋調査士として、登記実務をよく知っている人でも同じです。
改善したいテーマや構想を持っていても、次のような理由で実行前に止まることがありました。
- 何から試せばよいか分からない
- 大きな仕組みを考え、開発負担が重く見える
- 処理の組み立て方を考えられない
- エラーの原因を切り分けられない
- 試しているうちに時間切れになる
- 一度は動いても、条件が変わると使えなくなる
AIを使っていないわけでも、実務を知らないわけでもありません。
既に知っているAIの使い方を、自分の別の仕事へ応用し、小さく試すところに壁があったのです。
キーパーソンに必要なのは、AI化できる仕事を「探し、試す」力
事務所のAI活用を広げる人は、用意された使い方を繰り返すだけでなく、
日常の仕事を見て「この作業にもAIを使えないか」と考えます。
この記事でいう「AI化できる仕事」とは、経理や測量といった業務全体をAIへ任せることではありません。
業務の中にある抽出、比較、転記、確認、入力などを、AIやAIが作った仕組みで支援することです。
決められた用途でAIを使う
一般的なAI利用には、次のようなものがあります。
- メールや送付状の下書きを作る
- 長い文章を要約する
- 文章の表現を整える
- 調べたいことを質問する
- 用意されたプロンプトやカスタムGPTを使う
いずれも有用なAI活用です。
ただし、同じ用途だけを繰り返していると、利用範囲はその仕事の中にとどまります。
目の前の課題をAIで解決できないか考える
AI化できる仕事を探し、試せる人は、日常業務の中にある小さな負担を見ます。
- 同じ情報を複数の書類へ入力している
- 二つの資料を毎回見比べている
- 決まった条件で記載漏れを探している
- 大量のデータから必要なものを抜き出している
- 毎月同じ形式の一覧表を作っている
- 定型的な書類や報告文を繰り返し作成している
たとえば、給与計算全体をAI化するのではありません。
勤怠確認の中にある「打刻漏れを抽出する作業」をAIに手伝わせます。
相続登記業務全体を自動化するのではなく、依頼者から受け取った情報を、申請書のひな型へ入力する作業を対象にします。
業務を分解し、AIを使う範囲を検討する方法は、「本気で『隣地挨拶状作成のAI化』をChatGPTに考えさせてみた」で詳しく紹介しています。
生成AIの大きなメリットは、自分用の仕組みを作れること
生成AIが一般に普及したことによって、自分の仕事に合わせた仕組みを作れる範囲は大きく広がりました。
従来の自作型ツールでは、調べるための知識も必要だった
利用者が自分で業務アプリや自動処理を組み立てられるサービスは、以前から存在しており、私自身もこうしたサービスを実際に使ったことがあります。
これらのサービスは自分の業務に合わせて作れる自由度はあるのです。
しかし、実際に組み立てようとすると、さまざまな壁がありました。
- どの機能を使えばよいか分からない
- 設定項目や専門用語の意味が分からない
- 処理をどの順番で組み立てればよいか分からない
- 分からないことを調べるための検索語が分からない
- エラーの原因や、修正する場所が分からない
自分でカスタマイズできる製品であっても、製品側の考え方や専門用語を理解しなければ、作り始めること自体が難しい場合があります。
生成AIには、やりたいことを仕事の言葉で相談できる
生成AIでは、技術名を知らない状態から相談を始められます。
毎月、このスプレッドシートへ同じ形式でデータを追加しています。
新しいデータが追加されたら、未処理のものだけ担当者へ通知したいです。どのような方法がありますか。
このように業務の言葉で相談すると、AIはスプレッドシートの関数で対応できるのか、Google Apps Script(GAS)を使うのか、別の方法が適しているのかを整理します。
GASが必要であれば、コードを作らせることも可能です。
設定方法が分からなければ、画面を見ながら進められる手順を聞ける。
エラーが出た場合は、表示された内容を渡して原因と修正方法を相談できます。
つまり、必要な方法を調べる、選ぶ、作る、直すという一連の作業を、AIとの対話で進められます。
スプレッドシートを、自分の業務用ツールへ変えられる
スプレッドシートとGASを組み合わせると、次のような処理を作れます。
- フォームやチャットから届いた依頼を一覧表へ記録する
- 特定の条件に該当する案件だけを抽出する
- 未処理の案件を担当者へ通知する
- 毎月使うシートや数式を自動で準備する
- 複数のCSVデータを照合する
- 処理結果を決まった形式で出力する
重要なのは、最初からGASという名前を知っていることではありません。
「この繰り返し作業を減らしたい」とAIへ相談し、必要な方法へたどり着けることです。
Codexを使い、定型入力のプログラムを作る
OpenAIのCodexのようなコード作成支援AIを使えば、自然な言葉で指示しながら、コードの作成や修正を進められます。
支援先では、総務担当者が、産休・育休関係の申請書のひな型へ、申請者の住所や氏名などを入力するプログラムを作っています。
必要な書類のひな型を所定のフォルダへ置き、入力する情報と場所をAIへ伝える。
結果を確認し、うまく入力できなければ条件を修正する。
このように、実務担当者自身が試作品を作れるようになりました。
生成AIは、既製の機能を使うだけの道具ではありません。
自分が担当する仕事に合わせて、使い方や仕組みをカスタマイズできる対話型の道具なのです。
経理担当者Aさんは、目の前の課題をAIへ持ち込んだ
支援先の経理担当者Aさんは、当初、AIの利用回数が突出して多かったわけではありません。
それでも、自分が困っている経理処理をAIへ相談し続け、活用範囲を広げました。
AIに慣れるまでは頭の中にある経理処理の条件や例外を、一度に整理してAIへ伝えることが難しい状態でした。
そこで、業務全体を説明するのではなく、目の前の問題を一つずつ社内用のカスタムGPTへ相談しました。
- 二つのデータを照合したい
- 特定の条件に当てはまるものを除外したい
- 未処理の可能性があるものだけを一覧にしたい
- 確認結果を担当者へ自動で通知したい
AIの回答どおりに進めても、うまく動かないことがあります。
条件が増えると、AIが前提を見失うこともありました。
Aさんは、そのたびに質問を変え、処理方法を見直し、実際のデータで試しました。
現在は、スプレッドシート、GAS、マクロ、チャット通知、CSVデータの照合などを組み合わせ、自分の経理業務に合う仕組みを改善しています。
外部の一般的なひな型では置き換えられないほど、事務所固有の経理処理や確認条件に合わせてカスタマイズされています。(私が聞いても、すぐには理解できないほど進んでいたりします・・・)
AさんがAI活用を広げられた理由は、最初から多くのAI機能を知っていたからではありません。
自分の課題をAIへ持ち込み、うまくいかなくても相談と修正を続けたからです。
総務担当者Bさんは、一つの成功を別の仕事へ広げた
総務責任者Bさんは、一つの作業で得た成功を、似た仕事へ応用することで活用範囲を広げました。
当初から、メール作成、文章整理、検索、データ整理などにはAIを使っていました。
ただし、最初から自分でプログラムを作っていたわけではありません。
転機の一つは、Excelの大量データを別の形式へ変換する作業でした。
AIへ任せることで作業時間を減らせたため、同じ考え方を別の仕事にも使えないかと考えるようになりました。
その後、打刻漏れなどの確認作業や、画像から必要情報を読み取って一覧化する作業へ応用しています。
うまくいった会話は、AI自身に再利用用のプロンプトへ整理させ、他の職員へ渡すようにもなりました。
現在は、申請書のひな型への自動入力や、給与・請求書に関する業務用プログラムの作成まで進んでいます。
私の仕事がなくなってきました。
Bさんがこう話したことがあります。
総務責任者としての仕事がなくなったわけではありません。
住所や氏名の転記、漏れの抽出、定型資料の作成など、手作業で繰り返していた部分が減ってきたという意味です。
Bさんは、一つの用途を使い続けるだけでなく、「同じ方法を別の仕事にも使えないか」と考えたのです。
一つの成功を次の課題へ応用したことが、AI活用の広がりにつながっています。
二人に共通していたのは、AIの知識量ではなく行動だった
AさんとBさんの事例だけで、AI導入人材の条件を一般化することはできません。
ただし、支援先のアンケートや日々の記録を振り返ると、二人には共通する行動がありました。
- AIが得意な処理を知る
文章作成だけでなく、抽出、比較、分類、変換、整理、コード作成などにも使えると理解する。 - 自分の実務上の課題へ当てはめる
研修用の課題ではなく、日常的に困っている仕事をAIへ持ち込む。 - 実際に試す
アイデアだけで終わらせず、サンプルや実際の業務に近いデータで動かす。 - 失敗したら質問や方法を変える
条件を追加する、処理を小さくする、別のツールを使うなど、試し方を変える。 - 成功した方法を別の仕事へ応用する
同じ抽出、比較、入力、通知の仕組みを、別の業務にも使えないか考える。 - プロンプトや仕組みとして残す
一度の成功で終わらせず、自分や他の職員が再利用できる形に整える。
AI人材とは、特定の用途でAIを何度も使う人だけではありません。
AIの特徴を理解し、自分の仕事へ当てはめ、試行と修正を続けられる人です。
まとめ|AI導入のキーパーソンは、自分の仕事で試せる人
AIを知っているだけで、事務所のAI活用を拡げるのは難しいです。
登記や測量の実務をよく知っているだけでも、新しい活用方法が自然に生まれるわけではありません。
必要なのは、AIが得意な処理をある程度理解し、自分の目の前の課題へ当てはめ、実際に試せる人です。
一度でうまくいかなくても、質問や方法を変える。成功した方法を別の仕事へ応用する。
さらに、自分の業務に合わせたプロンプト、スプレッドシート、GAS、プログラムへカスタマイズする。
生成AIは、既製の機能を使うだけの道具ではありません。
やりたいことを仕事の言葉で伝え、必要な方法を調べ、作り、直しながら、自分用の仕組みを作れる対話型の道具です。
AI導入のキーパーソンは、AIを最も多く使う人でなく、AI化できる仕事を探し、目の前の課題で試し続けられる人です。
事務所内のAI活用を、メールや要約の先へ
自分の業務から、次に試すAI活用を見つける
AIの杜さいたの事務所向けAI研修では、参加者自身の担当業務を題材にして、 AIで試せる仕事を探します。
実際の課題をAIへ相談し、試し、修正し、 自分の仕事に合うプロンプトや仕組みへ整えるところまで取り組みます。
「職員はAIを使っているが、活用方法が広がらない」 「次に何を試せばよいか分からない」という場合は、 現在の利用状況と業務内容から整理します。