ChatGPTの処理が遅い? AIの処理って「ピッ」「ピッ」じゃないの??(無茶言わないでください・・・)

ChatGPTの処理が遅い? AIの処理って「ピッ」「ピッ」じゃないの??(無茶言わないでください・・・)

「AIの処理、もう少し速くできませんか?」
「すぐ結果が出るようにできない?」
「待っている時間がもったいないんですよね」

AI導入支援をしていると、こうした声をよく聞きます。
ChatGPTそのものに限らず、GPTsやAIを組み込んだ業務アプリでも同じです。

AIは何でもできる。しかも、すぐできる。ただし、間違いがある。

AIに対して、そんなイメージをお持ちの方も多いのかもしれません。
では、「もっと速くしてほしい」と言われたらどうするのか。

結論から言うと、何でも一瞬で、しかも高い精度で処理することはできません。

AIは、ボタンを「ピッ」「ピッ」と押せば完成品が出てくるものではないからです。

この記事では、ChatGPTの2つのモデルに同じ業務問題を解かせた比較結果を交えながら、次の3点を士業事務所の実務目線で整理します。

  • AIの「速さ」をどう評価すればよいのか
  • AIが処理している間、人は何をすればよいのか
  • 「AIを入れても時間が変わらないなら意味がない」は本当か

結論:AIは「回答時間」ではなく「仕事全体の時間」で見る

先に、この記事の結論をお伝えします。

AIが何秒で答えたかだけを見て、速い・遅いを判断すると、判断を誤りやすくなります。
業務で見るべきなのは、次の合計です。

回答時間+確認時間+修正時間+やり直し時間

さらに、待ち時間の使い方、業務フローへの組み込み方、人間側の慣れまで含めて考えると、AI導入の本当の効果が見えてきます。

AIは「完成品を取り出している」のではなく、その場で処理している

生成AIは、あらかじめ用意された完成品を棚から取り出しているわけではありません。

入力された指示や資料を読み、条件を整理し、その場で回答を組み立てています。
そのため、同じ「AIへのお願い」でも、仕事の中身によって処理の重さが変わります。

依頼内容AIが扱う条件
「この文章を丁寧なメールにしてください」元の文章と、言葉遣いの調整
「複数の担当者について、勤務時間、既存案件、移動時間、同時刻の予定などを確認しながら、できるだけ多くの案件を受けられるよう配置してください」誰が勤務しているか/既存案件と重ならないか/移動時間は足りるか/同じ時間に別の担当者を使えないか/全体として何件受けられるか

後者は、複数の条件を同時に扱う必要があります。
人間でも、条件が増えれば確認に時間がかかるように、AIも同じく時間がかかるのです。

軽いモデルなら速いのか? AstraとLunaで比較してみた

「AIの処理を早くしたい」という要望は昔からあるので、AIには複数のモデルがあり、処理内容によって使い分けて、「早く処理する」ことも可能ではあります。

「それなら、軽いモデルを使えば速くなるのでは?」と考える方もいるでしょう。

そこで今回、実際の業務を想定した同じ問題を、ChatGPTの最新モデル「Astra」と少し前に出た「Luna」でそれぞれ3回ずつ処理させて比較しました。

実験の条件

項目内容
使用環境ChatGPT Plusプランの「ChatGPT Work」
比較したモデルGPT-6 Astra(以下、Astra)※思考量は「高」
GPT-5.6 Luna(以下、Luna)※思考量は「軽」
試行回数各モデル3回
問題・プロンプト両モデルとも同一(全文は下記)

2026年9月21日時点で、OpenAIはAstra「複雑な問題解決などに向けた最も高性能なモデル」Luna「情報の抽出や分類、短い修正など、的を絞った作業や繰り返し作業に向けた、速く経済的なモデル」と位置付けています。
一応、思考量の差はありますが、Astraは一番よく考えるように(思考重視)、Lunaはスピード重視(思考は軽め)、といったイメージで考えてください。

今回の比較は、AIを業務で使うときによく出てくる、

「速さを優先して軽いモデルを選ぶか」
「正確さを優先して高性能なモデルを選ぶか」

という選択を想定したものです。

実験で使った問題

実験では複数の司法書士について、勤務時間、既存の決済予定、移動条件などを確認しながら、できるだけ多くの案件(不動産売買の決済)を受任できるよう担当者を割り当てる問題です。

※掲載用に表を整形しています。内容は実験時と同一です。

実験で使用した問題・条件を見る

あなたは司法書士事務所の決済案件の担当調整をしています。
以下の勤務状況・既存案件・移動条件を確認し、新規案件について「自社で対応する案件」と「断る案件」を判定してください。

【ルール】

  • 決済開始時刻は9:00または11:30
  • 1人の司法書士が担当できるのは1日最大2件(9:00・11:30各1件)
  • 「午前のみ勤務」の司法書士が担当できるのは9:00の決済のみ
  • 午前のみ勤務の司法書士は11:30開始の決済を担当できない
  • 終日勤務の司法書士は9:00・11:30とも担当可能
  • 既存案件の日時・場所は変更不可
  • 新規案件も日時・場所の変更不可
  • 9:00と11:30を連続して担当する場合、下記の移動条件を満たす必要がある
  • 受任可能な案件はできるだけ多く受任する
  • 同じ時間帯で案件が競合する場合は、受付番号が若い案件を優先する

【司法書士の勤務】

司法書士10/5(月)10/6(火)
佐藤終日午前のみ
鈴木午前のみ休み
高橋休み終日
田中終日終日

【既存の決済】

時刻担当場所
10/59:00佐藤新宿
10/59:00田中大宮
10/511:30田中大宮
10/69:00高橋横浜
10/611:30田中新宿

【9:00→11:30の移動可否】

9:00の場所→11:30の場所可否
同じ場所
新宿⇔東京
東京⇔横浜
東京⇔大宮
新宿⇔大宮
新宿⇔横浜×
横浜⇔大宮×

【新規案件】

案件時刻場所
A10/511:30東京
B10/59:00横浜
C10/511:30大宮
D10/69:00新宿
E10/69:00大宮
F10/611:30横浜
G10/611:30大宮

「案件/受任・断る/担当司法書士/理由」の4列の表で回答してください。
最後に、受任できる件数も書いてください。

正しい配置:5件を受任できる

このように配置できれば正解です。

案件判定担当ポイント
A受任佐藤9:00新宿の既存案件の後、11:30東京へ移動可能
B受任鈴木午前のみ勤務だが、9:00の案件なので担当可能
C断る10/5・11:30に空いているのは佐藤のみ。受付番号の若いAを優先
D受任佐藤午前のみ勤務だが、9:00の案件なので担当可能
E受任田中9:00大宮の後、既存の11:30新宿へ移動可能
F受任高橋9:00横浜の既存案件の後、11:30も横浜で移動不要
G断る田中は既存の11:30新宿案件、高橋はFを担当。空きがない

受任できる件数:5件(A・B・D・E・F)

結果:処理時間は同じ。差が出たのは「正確さ」と「安定性」

さて、AstraとLunaでは、処理結果にこのような差が出ました。

比較項目AstraLuna
3回中の正解3/31/3
今回の3試行での正答率100%33%
処理時間約30秒約30秒
回答した受任件数3回とも5件(正しい配置)正解の回は5件/
誤答の回は「4件」と「5件だが内訳が誤り」
E案件の処理○ 別の担当者へ配置× 誤答した2回とも「Dと競合」として断った
G案件の処理○ 既存案件まで確認× 既存の11:30案件がある田中へ割り当てた回あり
全体最適化安定不安定
回答の見た目ほぼ同程度ほぼ同程度

面白かったのは、処理時間にほとんど差がなかったことです。どちらも約30秒でした。
今回に限っていえば、

「軽いモデルだから速い」
「高性能なモデルだから遅い」

という結果にはなりませんでした。
差が出たのは、回答の正確さと安定性です。

しかも、回答の見た目はどちらもほぼ同じで、パッと見ただけでは、どちらが正しいか分かりにくいのです。

Lunaの誤り①:E案件を「競合」と判断して断った

Lunaが誤答した2回は、どちらもE案件を断っていました。

E:断る
10/6・9:00でDと競合。受付番号の若いDを優先

たしかに、10月6日9時にはD案件とE案件が重なっています。
しかし、この時間に空いている司法書士は一人ではありません。

  • D → 佐藤
  • E → 田中

と分ければ、両方とも受任できます。
Lunaは、

「同じ時刻に2案件ある」→「競合している」

局所的に判断し、「競合したら受付番号の若い案件を優先する」というルールを当てはめてしまいました。

「別の司法書士へ振れば、両方受けられないか」

という事務所全体の配置までは、処理できていなかったわけです。

Lunaの誤り②:G案件で既存の予定を見落とした

誤答した2回のうち1回では、さらにG案件を田中へ割り当てていました。

G:受任 田中
10/6 11:30に対応可能。9:00案件を担当していないため、移動条件の問題なし

ところが田中には、最初から10月6日11時30分に新宿で既存の決済案件がありました。

こちらは、既存条件の見落としです。

件数だけを見ると「正解」に見えた回もあった

この回、Lunaが答えた受任件数は5件(A・B・D・F・G)でした。

正しい件数も5件です。件数だけを見れば、正解と同じに見えます。
しかし中身は、受けられるはずのEを断り、受けられないGを入れた配置でした。

GPT-5.6 LunaがE案件を断り、G案件を田中へ誤配置した回答画面
Lunaの誤答例。受任件数は「5件」と表示されていますが、Eを断り、既存案件のある田中へGを割り当てています。

もう1回の誤答では、Gは正しく断ったものの、Eを断ったため4件と答えています。

誤答はどちらも、人間が指摘して初めて修正された

誤答した2回は、どちらも私が誤りを指摘したあとで、正しい配置に修正されました。
G案件とE案件の両方を誤った回では、指摘を2回行う必要がありました。

AIが30秒で答えを出しても、人が誤りに気付き、指摘し、修正結果をもう一度確認する時間がかかる。
これは、後でお話しする「仕事全体の時間」そのものです。

Astraは「全体の組み合わせ」まで考えていた

一方、Astraは次のように判断しています。

D:佐藤
田中をEに割り当てることで両案件を受任できる

Dだけを単独で判定するのではなく、「Dを誰に振れば、Eも受けられるか」まで含めて組み合わせていたわけです。

既存案件、勤務時間、同時刻の重複、移動、午前勤務者の条件、最大受任件数、受付順をまとめて処理し、3回とも5件を受任できる配置を出しました。

Astraの回答例。Dを佐藤、Eを田中へ分け、5件を受任できる配置を出しています。

これは「文章が少し詳しい」という程度の差ではありません。
事務所が実際に受けられる案件数と、その中身の判断が変わるという、業務上の差です。

速さを求めて軽いモデルを選んでも、速くならなかった

今回の問題は、条件は多いものの、事務所の日常業務としては特別に難しいものではありません。

それでも、この程度の問題で差が出ました。

速くしようとして軽いモデルを選ぶと、不正確な回答が出る可能性がある。
だからこそ、指示の内容に応じて、適正なモデルを選ぶ必要があります。

しかも今回は、軽いモデルを選んでも処理時間は変わりませんでした。
速さを求めて軽いモデルを選んだ結果、得られたのは速さではなく、正確さの低下だけだったわけです。

この実験から言えること・言えないこと

今回の結果だけで、「Astraなら必ず正解する」「Lunaは使えない」という結論にしたいわけではありません。

  • 各モデル3回ずつの実験であり、試行回数は多くない
  • 同じ問題・同じプロンプトでの比較である
  • プロンプトの書き方を変えた場合の結果は、今回は検証していない
  • モデル全体の性能を断定するものではない

したがって、Astra 100%、Luna 33%という数字を、モデル一般の性能値として扱うことはできません。

ただし、同じ問題・同じプロンプトでも、モデルによって条件の拾い方や回答の安定性に違いが出ることがあるという点は、今回の比較で確認できました。

こうした違いは、仕様表を見ているだけでは分かりにくいものです。

「速く答えが出る」と「仕事が早く終わる」は違う

ここが大事なところです。

仮に10秒で回答が出ても、

「この条件が抜けている」
「この予定を見落としている」
「もう一度やり直して」

と、修正と再指示を繰り返せば、結局時間がかかります。
逆に、数分かかっても、確認と修正が少なくて済む回答が出るなら、仕事全体では早く終わることがあります。
業務でAIを使うなら、見るべきなのはAIの回答時間だけではありません。

回答時間+確認時間+修正時間+やり直し時間

こちらの方が重要ではないでしょうか?

モデル名を覚えるより、「使い分ける感覚」を身につける

AIのモデルは、どんどん更新されるので、数か月後には、性能や位置付けが変わっているかもしれません。
ですから、「このモデルが絶対に一番」と名前だけを覚えても、それだけでは十分ではありません。

一方で、

  • 「この程度の仕事なら、軽いモデルでも十分そうだ」
  • 「条件が多い仕事は、もう少ししっかり処理させた方がよさそうだ」
  • 「この仕事では、この条件をよく落とすな」

という感覚は、実際の業務で使っていく中で身についてきます。
どこまでAIへ任せられるのか。どこから人間が確認すべきなのか。どんな指示なら安定するのか。

こうした感覚は、人間側が経験として覚えていくものだと私は考えています。

AIが処理している間、人間は何をするのか? 4つの選択肢

では、待ち時間が発生することを受け入れたとして、AIが30秒、1分、場合によっては数分考えている。
その間、人間は何をすればよいのでしょうか?

私が支援先で提示している選択肢は、大きく4つあります。
どれか一つが正解というわけではなく、その場に応じて選ぶものです。

① お茶を飲んで待つ

ちょっと極端な言い方ではありますが、これも一つの選択肢です。

ただし、これは後述する「AIを使い始めたばかりで、どうしていいか分からず画面をじっと見ている状態」とは意味が違います。

AIに慣れてくると、「この処理なら5分くらいかかる」ということが分かるようになります。

そのうえで、

「今回は別の仕事を入れない」
「少し席を立って、お茶を飲んで戻ってこよう」
「トイレに行ってこよう」

と判断するわけです。

たとえば、複雑なスプレッドシートを処理させていて、その結果を使ってすぐ次の作業へ進む場合、数分のためにまったく別の仕事へ頭を切り替える方が、かえって面倒なこともあります。

もちろん、「AIが動いている間は休んでいればいい」という意味ではありません。
処理時間を把握したうえで、その時間をどう使うかを自分で選べるということです。

私は20分、30分かかる処理の時にはうどん屋に行ってうどんを食べたり(讃岐うどん屋さんは、5~10分くらいで食べられる※ソースは私w)、AI関連のYoutube動画を観たりします。

② 別のタブで、別のAI処理を進める

AIで処理することが溜まっている場合は、ChatGPTなどを複数のタブで開いて、

  • 一方ではメール返信
  • 一方では挨拶状の作成
  • もう一方では調べ物

というように並行して進める方法もあります。
ただ、マルチタスクになるので、比較的、自分の頭への負荷が少ない仕事を組み合わせます。

ただ、これは少し慣れが必要です。
私が支援している現場を見ても、複数のAI処理を同時に管理するのは、最初から簡単にできるものではないようです。

③ AI以外の関連業務を進める

比較的取り入れやすいのがこちらです。

たとえば、AIに座標を読み取らせている間に、

  • 謄本や公図を印刷する
  • CADで現場を作る
  • 紹介者へ連絡する
  • 日程調整をする

といった作業を進めます。

私は、まったく別の案件へ移るより、同じ案件や関連する業務を進める方がやりやすいと考えています。
案件を頭から追い出さずに済みますし、AIへ何を頼んでいたのかも忘れにくいからです。

④ 定型作業は、最初から自動処理にする

毎朝の情報収集や、その日のタスク確認など、決まった時間に行う作業であれば、人間が毎回開始して待つ必要はありません。

ChatGPTには、左メニューの「スケジュール」から、一回限りまたは定期的なタスクを設定できる機能があります。
リマインダーの設定や、更新の監視を頼むこともできます(2026年9月21日時点。利用できるかどうかは、アカウントやアプリ、アプリのバージョンによって異なります)。

仕事を始める前に必要な情報がまとまっていれば、AIが終わるまで待つ場面そのものを減らせます。

(参考:OpenAI ヘルプセンター「Scheduled tasks in ChatGPT」

注意:AIに仕事を頼んだこと自体を忘れない

待ち時間に別の仕事をする場合、一つ注意があります。

AIに仕事を頼んでいたこと自体を忘れてしまうことです。

メールを返して、そのまま電話をして、別の案件へ移る。
気付けばAIの処理はとっくに終わっていた。これでは意味がありません。

AIへ仕事を渡したら、

依頼する → 別の仕事をする → 戻る → 結果を確認する

ここまでを一つの業務として考える必要があります。

AIの使い始め、「じーっと待つ」のは当然。
慣れると仕事の組み方が変わる

さて、ここまで読むと「AIに仕事をやらせたら、待つ時間は何かしていないと」と思われるかもしれませんが、慣れるまでは無理しなくても良いです。

最初は「AIが終わるまで待つ」工程が生まれる

AIを使い始めたばかりの方を見ていると、AIが処理している間、画面を見ながら待っていることがよくありますが、これには理由があります。

たとえば、これまで次の順番で仕事をしていたとします。

作業A → 作業B → 作業C → 作業D

そこで突然、「今日から作業BをAIでやってください」と言われても、人間の頭の中では次のようになります。

作業A → AIによる作業Bが終わるのを待つ → 作業C → 作業D

作業Bが終わらなければ、作業Cへ進めない。これまでずっとそういう順番で仕事をしてきたのですから、当然です。

また、人間同士の話で言えば、右も左も分からない新人さんに初めて作業をお願いする時、

「大丈夫かな・・・」
「どこかで詰まって困らないかな?」

と見守る先輩のようなものです。

慣れると「AIの処理時間」を前提に組むようになる

ところが、AIを使い続けていると変わってきます。

最初から、「作業BはAIへ任せる。だから5分くらい自分の手が空く」と分かっている。

すると、

  • その間に一本電話しよう
  • 公図を印刷しておこう
  • メールを一件返そう
  • トイレに行ってこよう

という動きが自然に出てきます。場合によっては、「今日はずっと頭を使っているから、この5分はお茶を飲もう」でもいいのです。

何をしていいか分からず待っている状態と、処理時間を把握したうえで何をするか選んでいる状態は、同じ「待っている」に見えても意味がまったく違います。

これは、AIが突然高速になったわけではありません。

人間側の仕事の組み方が、AIを使う前提に変わったのです。

この変化は一朝一夕には起きない

AI導入支援をしていて、この変化はすぐには起きないと感じています。

個人差はありますが、私の支援先でも、半年程度使っていく中で、少しずつこうした仕事の組み方に慣れていくケースがあります。

AI導入には、人間側の習熟期間も必要です。

経営側と現場側では、待ち時間の見え方が違う

ここは、AIを事務所へ導入するときに無視できないところです。
経営者や管理職からすれば、AIへ費用を掛けて業務を効率化している以上、

「AIが処理している時間も、できれば有効に使ってほしい」

と考えるのは自然です。
一方、従業員側からすると、

「AIで効率化した結果、空いた時間にまた仕事を追加されるだけではないか」

と感じることもあります。
どちらかが正しく、どちらかが間違っているという話ではありません。

ただ、この認識の違いを無視して「AIを入れたんだから、空いた時間にどんどん別の仕事をしてください」とだけ進めると、現場ではAI導入そのものへの不満につながる可能性があります。

そこで私は支援先では、

  • そのまま待つ
  • 別のAI処理を進める
  • 関連業務を進める
  • 定型業務は自動化する

といった選択肢を提示したうえで、実際の使い方は現場の方に任せるようにしています。
AI導入では、AIの性能だけでなく、人間がどう使えば無理なく続けられるかまで考える必要があります。

「AIを入れても同じ時間なら意味がない」のか?

ここでも、よく出てくる意見があります。

「AIを使っても、結局かかる時間が同じなら意味がないのでは?」

たとえば、人間が10分で行っていた仕事が、AIを使っても確認まで含めて10分かかった。
これだけを見れば、「人間がやればいいのでは?」と思うかもしれません。

私は、同じ10分でも、その仕事をAIで処理できる状態になったことには意味があると考えています。

その仕事はすでに、「人間が全部やる仕事」から「AIを使って処理できる仕事」へ変わったからです。

理由は大きく2つあります。

理由①:AIが進化したとき、その恩恵を受けやすい

AIで処理する仕組みがすでにできていれば、将来モデルの性能が上がったとき、その改善を業務へ反映しやすくなります。

現在10分かかっているものが、7分になるかもしれない。5分になるかもしれない。
あるいは処理時間は変わらなくても、確認する箇所が減るかもしれない。

もちろん、AIが進化すれば必ず処理時間が短くなる、という意味ではありません。

重要なのは、AIを使える業務フローがすでにできていることです。
AIが進化してから「さて、この仕事をどうやってAIにやらせようか」とゼロから始める必要がありません。

理由②:業務を「データとして残せる」

AI導入の意味は、時間短縮だけではありません。

スプレッドシートなどと組み合わせれば、

  • 何を入力したか
  • AIがどんな結果を出したか
  • 人間がどこを修正したか
  • 最終的に何を採用したか

といった情報をデジタルデータとして残せるようになります。
人間がその場で判断して終わっていた仕事が、記録できる仕事に変わるわけです。

AI導入前

人間が処理する → 終わる

AI導入後

AIで処理する → 人間が確認する → 記録する → 次回改善する

記録が残れば、

  • どんな条件でAIが間違えたのか
  • どこまでなら任せられるのか
  • どのモデルが安定していたのか
  • 人間が毎回修正している箇所はどこか

といったことを後から確認でき、プロンプトや業務フローの改善にもつなげられます。
これはかなり大きな変化です。

最初から大幅な時間短縮を求めなくてもいい

AIを導入した初日から「作業時間が半分になった」「人件費が一気に下がった」という結果が出る仕事ばかりではありません。

最初は、AIへの指示に時間がかかり、結果確認にも時間がかかり、修正方法を考える必要もあります。人間だけでやった場合とほとんど時間が変わらないこともあります。

それでも、

  • AIで処理できるようになった
  • AIが間違いやすい場所が分かってきた
  • 人間が確認すべき部分が見えてきた
  • 結果をデータとして残せるようになった

ここまで進めば、AI化としては大きな一歩です。

その土台があるからこそ、モデルの進化、プロンプトの改善、自動化、スプレッドシートや他システムとの連携によって、後から効率を高めていけます。

AI導入を「今日、何分短縮できたか」だけで評価する必要はありません。その業務を、今後改善し続けられる形へ変えられたかも見る必要があります。

士業では、ある程度の処理時間は受け入れてほしい

特に士業でAIを使う場合、速度だけを追うのは危険だと考えています。(もちろん、他のお仕事も)

たとえば、次の2つなら、実務でどちらが使いやすいでしょうか。

  • 数秒で出てきたものの、内容が5割程度しか合っていない登記申請書の下書き
  • 5分かかったものの、ほぼ間違いがなく、確認・修正する箇所が少ない下書き

5分かかっても、待ち時間は別に画面の前でいる必要はないのです。
そう考えると、ほぼ間違いがない方が良いと思いませんか?

ただし、どれだけ性能の高いAIを使っても、ハルシネーション(もっともらしい誤り)や誤回答を100%なくすことはできません。
AIに最終判断を任せるのではなく、役割を分けることが前提です。(ココ重要!)

AIに任せる部分人間・資格者が行う部分
下書き、情報の整理、抽出、比較、チェックの補助原資料との照合、条件の確認、専門判断、成果物の最終承認

登記申請書、契約書、最終チェックなどの重要な判断なら、なおさらです。

士業の仕事で求められるのは、速さよりも正確さです。
正確さを重視してAIを使う以上、ある程度処理に時間がかかることは受け入れていただきたいと考えています。

条件の多い仕事を、高い精度で、しかも「ピッ」「ピッ」と一瞬で。

正直なところ、現在のAIでそれは無茶な注文です。

だからこそ、「一番速いAIを使う」ではなく、「この業務では、どのモデルを使えば、人間が確認しやすいところまで持っていけるか」を考える必要があります。

まとめ:AI導入は「AIを速くすること」だけではない

AIの処理が遅い。もっと速くしてほしい。その意見が出るのは分かります。

ただ、今回のAstraとLunaの比較では、どちらも処理時間は約30秒でした。それでも、業務上の結果には差が出ました。

速さを求めて軽いモデルを選べば、正確さを失う可能性がある。正確さが求められる士業の仕事では、多少の処理時間は必要なコストです。

AIを仕事で使うなら、

  • どのモデルを使うか
  • どこまでAIへ任せるか
  • 人間がどこを確認するか
  • AIが処理している間をどう使うか
  • 処理結果をどう記録し、次回の改善へつなげるか
  • 人間自身が、AIを使う仕事の流れにどれだけ慣れているか

ここまで含めてAI導入です。

モデルの違いも、待ち時間の使い方も、文章を読んだだけですべて身につくものではありません。

実際に仕事で使いながら、

「これは任せられる」
「これは必ず確認する」
「この処理には5分くらいかかるから、その間にこれをやろう」

という感覚を、少しずつ身につけていくものです。

だから私は、AIがもっと便利になってから使えばいい、とは考えていません。
AIが必要不可欠になってから慌てて覚えるのではなく、早い段階から日常業務の中で使い、経験を蓄積しておく。

それ自体に意味があると考えています。

AIの処理は「ピッ」「ピッ」ではありません。そこを分かったうえで付き合っていくことが、AIを業務に定着させる第一歩です。

AIを導入したけれど、業務にうまく組み込めていない事務所の方へ

登記サムライドットコムでは、土地家屋調査士事務所を中心に、AIツールの使い方だけでなく、

  • どの業務へAIを使うか
  • どのモデルを使うか
  • どこを人間が確認するか
  • スタッフがどう使うか
  • 利用ルールをどう作るか
  • どう記録し、改善していくか

まで含めて、AI導入を支援しています。

  • 「ChatGPTは入れたが、メール作成や要約以外に広がらない」
  • 「AIを導入したが、思ったほど効率化できていない」
  • 「職員によって使い方がバラバラで、定着しない」
  • 「どのモデルを、どの仕事で使えばいいのか分からない」
  • 「AIに任せる部分と、人が確認する部分を整理したい」

といった段階からでもご相談いただけます。AIを導入すること自体が目的ではありません。

事務所の仕事の中で、AIをどう使えば安全に、継続して役立てられるか。
業務フロー・確認手順・スタッフの運用まで、そこから一緒に整理します。

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