土地家屋調査士がAI時代に身につけたい5つのAIスキル|忙しい調査士事務所の効率化の始め方

土地家屋調査士がAI時代に身につけたい5つのAIスキル|忙しい調査士事務所の効率化の始め方

土地家屋調査士の仕事では、現場調査、図面作成、申請書類の整備、依頼者対応、不動産会社や金融機関との折衝など、多岐にわたる業務が発生します。
特に個人事務所では、最終的な確認や判断が所長に集中しがちなので、売上は立っていても毎日忙しく、残業が減らないという悩みを抱えるケースは少なくありません。

AIと聞くと、「調査士業務を丸ごと自動化できるのか」「申請書や図面まで全自動で作ってくれるのか」と期待する方もいるでしょう。

結論から言えば、現時点のAIは土地家屋調査士の仕事を丸ごと自動化する魔法の杖ではありません

しかし、文章作成、資料整理、メール文案、説明文の下書き、チェックリスト作成など、周辺業務の負担を大幅に軽くすることは可能です。

本記事では、忙しい土地家屋調査士事務所が効率化の第一歩を踏み出すために、まず身につけたい5つのAIスキルを解説します。

Table of Contents

AI活用は「少し楽にする作業」を見つけることから始める

AI導入において最初に持つべき視点は、「何でもAIにやらせる」ことではありません

まずは日々の業務の中で、所長やスタッフの時間を奪っている「名もなき作業」を洗い出します。

毎回似たようなメールを打つ、依頼者への説明文を考える、打ち合わせメモからToDoを整理する。
こうした作業は資格者としての最終判断ではありませんが、確実に時間を消費しています。

AI活用は、このような定型・周辺作業を楽にするところから着手するのが、最も確実で失敗の少ない方法です。

最初から調査業務そのものをAI化しようとしない

AIと聞くと「申請書や図面を作らせる」といった本丸の自動化を思い浮かべがちです。

しかし、土地家屋調査士業務には、境界判断や現場状況を踏まえた方針決定など、AIが責任を負えない領域が多数存在します。

最初からコア業務のAI化を目指すと、「思ったほど使えない」「自分でやった方が早い」という結論に陥ります。
まずは調査業務そのものではなく、文章作成や確認補助から使い始めるのが安全なルートです。

所長に集中している文章作成・整理・確認作業を見つける

個人事務所のボトルネックは、所長への細かな作業の集中です。

不動産会社へのメール、金融機関への連絡文、スタッフへの作業指示、申請前の確認項目の洗い出しなど、一つひとつは小さくても、積み重なれば大きな負担となります。

AIは、こうした「言語化・整理・リスト化」を非常に得意としています。

「この文章を分かりやすく整えて」「このメモから宿題を箇条書きにして」といった指示であれば、今日からでもすぐに始められます。

小さな成功体験が事務所全体への定着を生む

いきなり事務所全体のシステムを変えようとすると、スタッフの反発や混乱を招きます。

まずは「このメールだけAIで下書きしてみる」といった小さなレベルで試してみましょう。

実際に使ってみることで、AIの得意・不得意が肌感覚で分かってきます。
小さく試して、効果を実感できたものから少しずつ適用範囲を広げていくのが現実的な進め方です。

土地家屋調査士事務所でAI活用を始めるなら

まずは、文章作成・資料整理・チェック業務のような「少し楽にできる作業」から始めるのがおすすめです。AIに任せる部分と、人間が確認する部分を分けることで、安全に進めやすくなります。

AIは「契約すれば終わる道具」ではない

「さあ事務所をAIで効率化しよう!」

とChatGPTやGeminiなどのサービスを契約したとしても、仕事の流れは変わりません。
なぜなら、「AIの運用方針」が決まっていないからです。

どの業務に適用し、どこまでをAIに任せ、どこを人間が最終確認するのか。この運用設計を行わなければ、かえって確認の手間が増えたり、「ただAIを契約しただけ」という結果になってしまいます。

GNSSやネットワーク型RTKと同じように「使いこなす」過程が必須

TS中心の測量からGNSSやネットワーク型RTKを導入する時と同じようなものです。

新しい機材を入れたからといって、翌日から全現場で完璧に使えるわけではありません。
衛星の捕捉状況や建物の影響を考慮し、TSとの使い分けを実務の中で判断していくプロセスがあったはずです。

AIも全く同じです。使える場面と確認が必要な場面を、実務を通じて少しずつ学習していく過程が求められます。

AIの得意分野と苦手分野を把握する

AIには明確な得意・不得意があります。

文章の整理、説明文の作成、メール文案、打ち合わせメモの要約などは得意領域です。
一方で、現場の状況判断、境界の認定はもちろん、地積測量図・調査素図の作成も現状のAIにはできません。

また、AIはもっともらしい嘘(ハルシネーション)をつくことがあります。
ハルシネーションを防ぐ設定(RAG:検索拡張生成)を整える、チェック体制を敷く(誰が、どのタイミングでチェックする)必要もあります。

これらはAIの得意分野と苦手分野を把握した上でないと、ピンズレなAI化に陥ってしまうかもしれません。

所長個人のスキルから事務所全体の仕組みへ

更に言えば、所長だけがAIを使いこなしていても、事務所全体の効率化には限界があります。

「事務スタッフがAIで隣地挨拶状を作って送付する」
「機械マンがAIを使って現場メモを整理する」
「所長が最終確認をする」

このような役割分担できて初めて、所長に集中していた業務が分散されます。

AI導入とは、単なるツールの契約ではなく「事務所の仕事の進め方をアップデートすること」だと言えます。

土地家屋調査士業務でAIにできること・できないことについては、次の記事でも整理しています。

土地家屋調査士が身につけたい5つのAIスキル

ここからは、調査士事務所がAIを活用するために必要な5つの具体的スキルを解説します。

高度なプログラミング知識は一切不要です。
必要なものは、業務にAIを組み込むための「考え方」です。

1. 業務を分解する力

たとえば「建物表題登記申請をAIにやらせる」と大雑把に捉えるのではなく、作業工程を分解します。

現場の写真整理、床面積の算出と建物図面の作成、調査報告書の作成、所有権証明書・添付書類のスキャン、登記申請書の作成、データ添付+電子署名、最終チェック、申請、受付番号受理、銀行・司法書士への連絡。

このように分ければ、まずは「登記申請書の作成」、「銀行・司法書士への連絡書類作成」はAIに任せ、残りの作業は人間が行うという切り分けが可能になります。

そして慣れてきたら、現場の写真整理、調査報告書作成の一部をAI化する、と段階的にAIへ代替することができます。

2. AIの得意・不得意を見分ける力

AIを使う場合、一つのAIだけ(ChatGPTのみ、Geminiのみといった選別)にこだわる必要はありません。

AIの性能は日々進化しているため、特定のツールに固執するより「どのAIがこの作業に向いているか」「そもそもAI化できる業務課」を判断する力が問われます。

テキスト生成が得意なAI、画像やPDFの読み込みが得意なAIなど、それぞれの特性を理解し、業務ごとに使い分ける感覚を養いましょう。

3. AIに的確に伝わる指示(プロンプト)を作る力

ネットでAIを調べていると出てくる「プロンプト(AIへの指示文)」も重要です。

ただ、複雑なプロンプト術を暗記する必要はありませんし、AIが賢くなるにつれて、プロンプトの必要性は下がってきています。

しかし、プロンプトで重要なのは、目的を明確に言語化することです。

「何をさせたいか」
「どの資料をベースにするか」
「出力形式(表、箇条書きなど)はどうするか」

を具体的に指示すれば、AIはこちらの希望に沿った回答を出してくれる可能性が上がります。
たとえば登記申請書の一次チェックを依頼する場合・・・

悪い例:「必要に応じてチェックしておいてください。」

AIはあいまいな指示でも対応してくれますが、上記のようなプロンプトでは、不動産登記法上の形式に合っているかのチェックか、誤字脱字チェックか、そして回答は「問題なし」なのか、「日付〇、所在地番〇・・・」か迷ってしまいます。

例:「以下の登記申請書について、チェックしてください。住所氏名、所在地番の抜け漏れ・誤記がないかを住民票・登記簿謄本と突合し、正誤を表形式でリストアップしてください。最終判断は私が行います。」

一方、このように、目的(申請書のチェック)と前提条件(住民票や登記簿謄本という正しい情報がある)、出力形式(表形式)を与えるだけで、回答の精度は劇的に向上し、そして安定します。

人間への指示と同じく、指示は具体的・明確なほどAIも期待通りに動いてくれます。

4. AIの出力を検証・修正する力(編集力)

AIの回答はあくまで下書き(ドラフト)扱いと考えてください。

そのまま顧客に出せる完成品ではなく、誤情報や法的に不正確な表現が混ざる前提で向き合う必要があります。

AIはあくまで「優秀なアシスタント」であり、責任の取れる存在ではありません。
当然ながら、作成した書類の最終的な責任は土地家屋調査士にあります。

AIを使えば人間が不要になるのではなく、AIの出力から使える部分を抽出し、資格者として検証、修正を加える「編集力」が問われるようになります。

5. 事務所内で安全に運用するルールを敷く力

個人情報や機密情報を扱う以上、情報管理ルールの策定は必須です。

依頼者名、地番、登記情報などをどこまで入力してよいか。匿名化の基準はどうするか。どの業務でAIの使用を許可するか。

「危ないから使わない」と思考停止するのではなく、紙の資料やFAXと同様に、適切な運用ルールを定めて安全に活用する体制を整えましょう。必要であれば法人向け環境の導入も検討すべきです。

AI活用で迷う場合は、まず「どの業務に使うか」を整理しましょう

登記サムライドットコムでは、土地家屋調査士事務所向けに、AIの使いどころ、入力してよい情報、確認ルール、スタッフへの展開方法を整理する支援を行っています。

まずは文章作成・整理・チェック業務から始める

AIの導入は、リスクが低く効果を実感しやすい周辺業務から始めるのが鉄則です。
日々の小さな作業時間が削減されるだけでも、精神的な負担は大きく軽減されます。

メール・送付状・案内文の下書き(ドラフト)作成

最もハードルが低いのが、文章の下書き(ドラフト)作成です。

資料提出のお願い、不動産会社への確認事項、金融機関への送付状など、毎回ゼロから書いていた文章をAIに下書きさせます。
人間はそれを手直しするだけになるため、作成時間は大幅に短縮されます。

「自分の手でしっかり書かないと、気持ちが伝わらない!」

もちろん、そういった考えがあることも承知しております。
ただ、「ひな型」を使ったり、ネットで探した文章を元に書いているのであれば、AIを使っても同じことですよね?

時候の挨拶や定型文の箇所、また込み入って「どう表現したら分からない」といった内容を書いてもらうだけでも、「文章を作る」ことに対する面倒くささが軽減するのではないでしょうか??

打ち合わせメモの整理とToDo抽出

現場や打ち合わせ後の雑多なメモをAIに投げ、「作業内容」「確認事項」「相手待ちの事項」「期限」を表形式で整理させることも可能です。

誰が何をするべきかが可視化され、所長が頭の中で抱え込んでいたタスクをチーム全体で共有しやすくなります。

申請書・説明資料の「確認項目リスト」作成

申請書類そのものを作成させるのではなく、「この書類をチェックするための観点をリストアップして」と指示します。

日付、氏名、地番、添付書類の抜け漏れを防ぐためのオーダーメイドのチェックリストを即座に作成でき、ヒューマンエラーの防止に役立ちます。

AIに対応した事務所のワークフローを少しずつ作る

AI導入を考えているのであれば、最初は所長がAIを実際に使うことをお勧めします。

しかし、慣れてきたら個人のスキルアップで終わらせず、事務所全体の仕組みとして定着させるためのステップに進みましょう。

所長依存からの脱却

スタッフが作成した文章を所長が手直しするのではなく、スタッフ自身がAIを使ってブラッシュアップしたものを所長に提出するフローを作ります。

これにより、所長の確認コストは劇的に下がります。

AI使用の明確なルールを作成・提示する

事務所のスタッフにもAI使用を解禁する場合、AI使用に関する明確なルールを作成し、提示することが必要です。

  • 事務所指定のAIのみを使う(事務所指定AI:ChatGPT〇〇プラン)
  • 文章の整形やメモ整理には使ってよいが、登記情報や個人情報をそのまま入力するのは禁止
  • AIを使って作成した書類は自分の目で一次チェックをした上で、「AIで下書き作成」をチェック者に伝える
  • プライベート用のAIで業務を行わない

現場に判断を委ねると混乱や事故の元になるため、最低限のガイドラインは所長が提示します。

特に、従業員がプライベート用のAIを使っている場合は「どのように使っているか」の把握ができない上、
もしも個人情報を入力していた場合、個人情報保護法第27条(第三者提供の制限)違反になる可能性があります。

個人情報の保護に関する法律

(第三者提供の制限)
第二十七条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。

引用:E-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)

このように、プライベート用のAI使用は「野良AI」として問題になっております。

ただ、こういった状況を見つけた場合、「自分でAI化を進めていて偉い」と見逃すことも、「勝手にAI使ってはダメじゃないか」と叱責することもお勧めしません。

せっかく従業員の方が「業務のAI化」をしているのですからその芽を摘まないようにしつつ、事務所で有料アカウントを準備するなどのAI化推進・推奨を上手に実現しましょう。↓詳しくはこちらの記事

指示文(プロンプト)のテンプレート共有

「この文章を依頼者向けに分かりやすくして」「このメモからToDoを表にして」など、実務でよく使う指示文を事務所内で共有・蓄積します。

全員が同じ水準でAIを引き出せる環境を作ることが、組織的な効率化への近道です。

土地家屋調査士のAI活用は、小さく始めて育てる

AIは業務を根底から覆す特効薬ではなく、日常の負担を軽減する強力なサポートツールです。

全てを置き換える必要はない

「全部自動化できないなら意味がない」というゼロ百思考は捨てましょう。

業務の10%でも20%でも、AIに代替できればその分の時間をコア業務や経営に充てることができます。

1つの業務から着実に成功体験を積む

一気に広げるのではなく、まずは「メール文作成」や「メモ整理」など、1つの領域でAIの便利さを体感してください。
そこで得たノウハウを、少しずつ他の業務へ横展開していくのが最も確実な手法です。

AIに任せる部分と人間が担う部分を切り分け、実務にどう組み込むか。
この設計力こそが、これからの土地家屋調査士事務所に求められる最大のスキルです。

土地家屋調査士事務所でAI活用を始めたい方へ

AI導入に向けて、大掛かりなシステム改修は必要ありません。まずは日々の負担となっている文章作成や資料整理から、スモールステップで始めてみましょう。

研修・顧問・導入支援のご案内

事務所全体で安全かつ効果的にAIを運用するためには、業務の棚卸しとルール策定が不可欠です。

登記サムライAIを運営する「AIの杜さいた」では、土地家屋調査士事務所に特化したAI研修、業務改善コンサルティング、導入支援を行っています。
「何から手をつければいいか分からない」「セキュリティ面が不安」という方は、ぜひ一度ご相談ください。

関連記事・メルマガの活用

AIで「できること・できないこと」の詳細は、下記の関連記事でも詳しく解説しています。

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土地家屋調査士事務所のAI活用を始めたい方へ

ChatGPTやGeminiをどこから使えばよいか分からない場合は、業務内容に合わせて「AIに任せる部分」と「人間が確認する部分」を整理するところから始めると安全です。

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