AI導入は「Wordで作る」意識を変えるところから始まる|士業事務所で見えた2つの壁

AI導入は「Wordで作る」意識を変えるところから始まる|士業事務所で見えた2つの壁

士業事務所でAI導入支援をしていると、単に「AIの使い方を教える」だけでは業務は変わらないと感じる場面があります。

AI研修を受ければ、文案作成、要約、資料整理など、AIでできること自体は比較的早く理解できます。

しかし、そこから先にもう一段、見えにくい壁があります。

それは、これまでの業務習慣そのものを変える壁です。

特に士業事務所では、最終成果物がWord、Excel、PDFであることが多いため、どうしても
「まずWordを開く」
「Wordで作る」
「Word上で直す」

という流れに戻りやすくなります。

今回、ある士業法人のAI導入ミーティングを行う中で、AI化には大きく2つのハードルがあると改めて感じました。

第1の壁
「Wordで作る」から「AI上で整える」への転換

第2の壁
資格者ごとの作り方を残すのか、事務所として共通の型を作るのか

2つの壁は、AI導入を本気で進めるなら避けて通れません。
そして、AI導入は、ツールを入れるだけではありません。

事務所の業務の型、チェックの仕方、教育の仕方まで見直す作業です。

本稿では、士業事務所のAI化で見えた2つの壁と、AI化の先にある業務改善の可能性について整理します。

AI研修を受けても、現場はすぐに変わらない

AI研修を受けると、多くの方は「AIでここまでできるのか」と驚きます。
文案作成、要約、比較表作成、資料整理、チェックリスト作成など、従来であれば時間がかかっていた作業が、短時間で形になります。

ただし、AIの便利さを理解したからといって、翌日から業務フローが一気に変わるわけではありません。

理由は単純です。

現場には、これまで何年も積み重ねてきた作業習慣があるからです。

士業事務所では、Word文書を開いて、過去の文案を探して、必要な箇所を書き換えて、最後に人間が整えるという作業が当たり前になっています。

過去文案をWordで直す作業自体が悪いわけではありません。
むしろ、長年続けてきた実務フローによって、一定の品質が保たれてきた面もあります。

しかし、AIを導入する場合、従来型の作業手順が壁になります。

AIで文案を作れると分かっていても、現場の感覚としては、まずWordを開きたくなる。
AIで出した文案も、すぐにWordへ貼り付けて、あとはWord上で直したくなる。

Wordに戻りたくなる感覚は自然です。
ただ、AI活用においては少しもったいない使い方です。

AI導入の難しさは、人間側がこれまでの作業手順からいかに抜け出せるか、にかかっているとも言えます。

第1の壁:「Wordで作る」から「AI上で整える」への転換

AIを使うからといって、Wordを使わなくなるわけではありません。
士業実務では、最終的な成果物としてWord文書を使う場面は今後も残ります。

重要なことは、Wordの位置づけを変えることです。

第1の壁『WordからAIへ』

従来のWordを使った文章作成作業

従来は、Wordが作業の出発点でした。

過去に同様の案件を探す
↓
Wordで開く
↓
該当箇所を書き換える
↓
条項や番号を整える
↓
人間が確認する
↓
完成

従来の業務フローでは、Wordファイルが作業の中心にあります。
人間が過去文案を探し、人間が差し替え、人間が整え、人間が確認するため、AIが入る余地は一部の文案作成や表現修正にとどまりやすくなります。

これからの、AIを使った文章作成作業

一方で、AIを本格的に使う文章作成作業では、過去案件(参考資料)の探し方から変わります。

AIエージェントや過去案件データと連携したAIを使えば、類似案件を探し、その文案や条項を参考にしながら、今回の案件に沿った文案を作る流れに変えられます。

AIに案件情報や条件を入力する
↓
AIエージェント、または過去案件データと連携したAIが、類似案件をピックアップする
↓
過去案件の文案・条項・構成を参照しながら、今回の案件に沿った文案を作る
↓
AI上で修正指示を出す
↓
必要に応じて、関連メール・説明文・チェックリストも作る
↓
最後にWordへ出力する
↓
人間が確認する

作業の起点が変わるだけで、AI活用の広がりは大きく変わります。
「Wordで作るのではなく、AI上で整えて、最後にWordへ出す。」という流れになります。

この、「AI上で整えて、最後にWordへ出す」という発想に切り替えられるかどうかで、AI活用の効果は大きく変わります。

発想を変えるとAIの役割が変わる

Word上で直す作業に入ってしまうと、AIは単なる「下書き係」で終わります。
しかし、AI上で修正指示を出せるようになると、AIは「作業の相手」になるのです。

たとえば、次のような指示ができます。

この文案について、受託者の権限に関する条項だけをもう少し簡潔にしてください。
この契約書案をもとに、公証役場へ送る確認メールを作成してください。
依頼者への説明用に、専門用語を減らした説明文を作ってください。
この文案の確認ポイントを、司法書士レビュー用のチェックリストにしてください。

こういった指示出しによって、AI上で修正・派生文書作成まで行えるようになると、AIは単に本文を作るだけでなく、周辺業務まで可能になります。
契約書、説明文、メール、チェックリスト、社内メモ、これらを一連の流れで作れるようになると、AI活用の価値は更に一段上がります。

もちろん、AI活用の効果を高めるには、Wordを捨てる必要はありません。
Wordを最終出力先として位置づけ直す発想の転換が重要です。

この、「作業の中心」をWordからAIへ移すことが、士業事務所のAI導入で最初に超えるべき壁です。

第2の壁:資格者ごとの型を残すか、事務所共通の型を作るか

AI導入を進めると、もう1つ大きな論点が出てきます。

それは、文案や業務の「型」をどうするかという問題です。

今回のミーティングでも、ある業務について、今後どのような作成ルールにするかが論点になりました。

業務の型を揃える?揃えられる?

資格者ごとに業務の型が違っている状態でAI導入する場合、選択肢は大きく2つあります。
資格者ごとの型を残す方法
事務所・法人として統一した1つの型を作る方法

複数の資格者がいる事務所、特に大きな法人では、資格者ごとに業務の進め方や書類の書き方が違うことがあります。(もちろん、補助者の方にもありますが、ベテラン補助者になればなるほど、柔軟に対応しているイメージ)

これまでの経験、過去に失敗した案件、法務局や金融機関とのやり取り、依頼者への説明のしやすさなどが積み重なって、それぞれの型になっています。
そうした背景があるため、AIを入れるときにも、「自分のやり方に合わせてAIを動かしたい」と考えるのは自然でしょう。

自分の型をAIに反映させたい感覚は、Word作業の話にも似ています。
長年使ってきた文案や進め方があるため、慣れた実務フローを基準にAI環境も整えたくなります

ただし、補助者側では別の問題が生じます。

資格者ごとに型が違うと、補助者は大変

私自身も士業事務所で15年間働いていた経験がありますが、資格者ごとの型の違いは、補助者にとってかなり大きな負担になります。

ちなみに過去に働いていた司法書士法人では、私が相続部門、隣が債務整理部門でこんなやり取りがありました。

A先生「俺のやり方はこうだから、この書類は先に作っておいてね。」
補助者の新人女性「すみませんが、B先生は『この書類は後で作って』とおっしゃってまして・・・」
A先生「いや、他の先生のやり方は知らないから。俺の時はこれでやってね。」

しかも、連日聞くこともあり、新人さんはお手上げ状態で困っていました。

このように、同じ種類の業務でも、担当する資格者によって、資料のまとめ方、確認の順番、好まれる表現、事前に出すべき資料が変わることがあります。

前述のとおり、ベテラン補助者であれば、「この先生の案件ならこの形」と経験で対応できます。しかし、新人さんが入ったときには説明が一気に難しくなります。

なぜなら、同じ業務を教えているはずなのに、説明が資格者の人数分に分岐してしまうからです。
資格者が3人いれば、3通りのやり方を教えるので手間も時間も3倍です!!

最低限、共通ルールは必要

新人さんが入った時(もちろん、新人研修が終わったばかりの資格者が入ることもあります)、何が事務所の共通ルールなのかは最低限決まっていないと、教える側・教えられる側のどちらも困ってしまいます。

何が特定の先生の好みなのか。どこまで守るべき手順で、どこからが個別対応なのか。
共通ルールと個別対応の線引きが見えないと、新人は混乱します。

また、補助者側も毎回「担当資格者は誰か」を確認しながら作業方法を切り替える必要があります。

資格者ごとの型は「悪」か??

資格者ごとの運用差は、士業事務所ではかなりよくある話であり、永遠のテーマだと思います。

とはいえ、資格者ごとの型が「悪」かといえば、そんなことはありません。
各資格者の実務感覚や判断の蓄積は、事務所にとって重要な知見です。
これらを共有できれば、より広範な業務に対応出来たり、ミスを防ぐことにつながります。

しかし、資格者ごとの型を整理しないままAIに持ち込むと、AI化によって便利になるどころか、複雑な運用をそのまま固定化してしまう危険があります。

AI導入を機に、資格者の型を整理する

ここまでご紹介したとおり、資格者の型には良い面・悪い面があります。
統一化が難しい(資格者ごとの意見をまとめるのはとっても大変)のは私も重々承知ですが、敢えて言えば・・・

AI導入で資格者の型を整理して、事務所の型を作ってしまおう!!

というのが私の理想論です。
まず、資格者ごとの型を残したままAI化した場合のメリット・デメリットは次の通りです。

方針 メリット デメリット
資格者ごとの型を残す 各資格者の実務感覚や経験を反映しやすい。特殊案件に柔軟に対応しやすい。 出力がばらつきやすい。新人教育やチェック基準が複雑になる。AIに覚えさせるルールも増える。
事務所共通の型を作る 品質が安定する。教育・引き継ぎ・チェックがしやすい。AIに覚えさせやすい。 最初に合意形成が必要。各資格者の細かい好みを調整する必要がある。例外処理の整理が必要。
共通型+例外パターン 標準化と柔軟性を両立しやすい。AIとの相性がよい。 例外ルールを整理しないと、結局複雑になる。

どちらもメリット・デメリットがあり、統合するのも大変そうに思えますし、挫折した事務所・法人も多いことと思います。

AIを使えば、細かい設定は可能です。
たとえば、資格者別の文案パターン、法人標準パターン、特殊案件パターンというように、複数の型を持たせることも、技術的には可能です。

しかし、AI化の目的は単なる便利ツールの導入ではないと考えるからこそ、共通の型を作るべきと提言します。

AIを導入するなら、誰が使っても一定の品質に近づくこと、チェックしやすくなること、教育しやすくなることが重要です。

最初から資格者ごとの細かい型を全部残そうとすると、AIは作れても運用が複雑になります。

  • 誰の型で作るのか
  • どれが正しいのか
  • 新人には何を教えるのか
  • 最終チェックはどの基準で行うのか

運用基準が曖昧になりやすいのです。
そのため、現実的には、まず事務所共通の型を作る。そのうえで、必要に応じて例外パターンや資格者別の調整を追加する。

事務所共通の型を先に整え、例外を後から追加する順番の方が、AI化には向いています。

AI化は、業務の属人化を見える化する

AI導入を進めると、単に「AIで何ができるか」だけではなく、事務所内の業務のクセが見えてきます。

業務のクセが見えてくる点は、AI化の大きな副産物です。

  • 誰がどの文案を使っているのか
  • どの部分は共通で、どの部分は人によって違うのか
  • 過去文案はどこまで信用できるのか(そもそも本当のオリジナルはいつのものか?)
  • チェック基準は誰が持っているのか
  • 新人に説明できるルールになっているのか
  • 例外処理はどこにあるのか
  • 最終判断は誰が行うのか

普段の業務では、文案の使い分けやチェック基準は意外と明文化されていません。

ベテランが感覚で判断している。前の担当者のWordを見て何となく直している。過去文案を探して、近そうなものを使っている、こういったことはないでしょうか?

実務では、暗黙知に頼った進め方でも業務が回っていることは多いです。

しかし、AIに任せるには、暗黙知のまま残っている「何となく」を言語化する必要があります。

AIは、人間の空気感や暗黙知をそのまま理解してくれるわけではありません。
どの文案を標準にするのか。どこを固定するのか。どこを案件ごとに変えるのか。
どの判断はAIに任せず、人間が確認するのか。

標準文案、固定箇所、差し替え箇所、人間確認が必要な判断を決めないと、AIの出力は安定しません。

つまり、AI化は業務の属人化をいきなり壊すものではありません

むしろ、暗黙知であった業務手順、判断基準を見える化した上で、共通化できる部分と、個別判断として残す部分に分けていく。

属人化の見える化と整理こそ、士業事務所のAI導入で重要になります。

AI導入の成果は、時間短縮だけではない

AI導入というと、どうしても「何分短縮できるか」「何時間削減できるか」という話になりがちです。

もちろん、時間短縮は重要です。

文案作成にかかる時間が減る。過去資料を探す時間が減る。説明文やメールの下書きが早くなる。これは分かりやすい成果です。

しかし、士業事務所のAI導入で得られる成果は、それだけではありません。

AI化を進める過程で、事務所は自分たちの業務を見直すことになります。

AI化の過程で起きること 得られる効果
文案を整理する業務品質が安定する
共通部分と個別判断部分を分けるチェックしやすくなる
過去文案を見直す古い運用や属人化に気づける
標準パターンを作る新人教育に使える
AIに渡すルールを作るマニュアル化が進む
レビュー項目を決める責任分界が明確になる

業務の見直しは、単なる時短ではありません。事務所の業務品質を上げる作業です。

AIを入れることで、これまで見えなかった属人化や曖昧なルールが表に出てきます。
属人化や曖昧なルールを整理できれば、業務の共通化、マニュアル化、新人教育、チェック体制の整備にもつながります。

AI導入の成果は、「作業が何分短くなったか」だけで測るべきではありません。

むしろ重要なのは、業務の再現性が上がることです。

誰か一人の経験や記憶に頼っていた業務が、事務所の共有資産になる。

業務を事務所の共有資産に変えられる点が、AI化によって得られる大きな成果です。

まずはAIを体験し、少しずつ作業範囲を広げる

ただし、最初から完璧なAI運用を作ろうとすると進みません。

AI導入で最初に必要なのは、完璧な設計図ではなく、まず使ってみることです。

私はAIも、「習うより慣れろ」と考えています。

最初は、文案の下書きだけでも構いません。
次に、AI上で修正指示を出してみる。
その次に、関連するメールや説明文も作ってみる。
慣れてきたら、Wordを最終出力として使う。

段階としては、次の流れが現実的です。

段階 使い方
第1段階AIに文案の下書きだけ作らせる(Word上で修正)
第2段階AI上で修正指示を出す(Word上で微調整)
第3段階関連メール・説明文・チェックリストをAIで作る(AIで初回チェック)
第4段階下書き・修正・最終チェックを行い、最後にWordへ出力する

段階的に進めれば、現場の負担を抑えながらAI活用を広げられます。

最初から、契約書も、説明資料も、メールも、マニュアルも、全部AIで作ろうとすると混乱します。
まずは1つの業務で使う。うまくいった部分を残す。違和感がある部分を修正する。また使う。

小さく使い、直し、再利用するサイクルが必要です。

AI導入に迷ったら「AIの杜さいた」の無料相談へ

AI導入は、一度の研修で終わるものではありません。
実際に使い、違和感を出し、修正し、また使う。その積み重ねによって、ようやく現場に定着します。

とはいえ、所内だけで進めようとすると、次のようなところで止まりやすくなります。

  • どの業務からAI化すべきか分からない
  • 職員がAIをどう使っているか把握できていない
  • 個人情報をどこまで入力してよいか判断できない
  • 資格者ごとの文案や進め方がバラバラになっている
  • AIで作った文案を、誰がどこまで確認すべきか決まっていない
  • ChatGPTのPlusプラン・Business、Geminiなどの使い分けが分からない

上記のような状態であれば、まずは事務所の現状を整理するところから始めた方が安全です。

AI導入で大切なのは、いきなり大きな仕組みを作ることではありません。現在の業務、使っている文案、所内ルール、職員の利用状況を確認し、AIに任せる部分と人間が確認する部分を分けることです。

登記サムライドットコムを運営する「AIの杜さいた」では、土地家屋調査士事務所・司法書士事務所など、登記事務所向けにAI導入無料相談を行っています。
(登記事務所15年勤務のコンサルタントが相談を受けますので、業務手順の説明は最低限でOKです)

「ウチの事務所でもAI導入しようか迷ってるけど、必要かどうか分からない」 そう思われた方は、まずはお気軽にご相談ください。(相談無料、オンライン対応) AI導入の要否、活用方針まで、御事務所の状況に合わせて具体的にアドバイスいたします。

まとめ|AI導入の本質は、業務の再設計である

私は今回のミーティングを通じて、士業事務所のAI導入には、見えにくいハードルが2つあると改めて感じました。

1つ目は、Wordで作る習慣から、AI上で作業し、最後にWordへ出力する発想へ変えること
2つ目は、資格者ごとの作り方を残すのか、事務所として統一した型を作るのかを決めること

どちらも、AIの操作方法だけでは解決しません。業務の考え方そのものを見直す必要があります。

ただし、業務の見直しには大きな価値があります。

AI化を進めることで、これまで曖昧だった文案、チェック項目、判断基準、教育方法が見えるようになります。

文案、チェック項目、判断基準、教育方法を整理できれば、AI導入は単なる時間短縮ではなく、事務所全体の標準化、マニュアル化、品質向上につながります。

AIを導入する価値は、作業が速くなることだけではありません。
自分たちの仕事を見直し、再現性のある業務に変えていくことにもあります。

士業事務所のAI化で本当に重要なのは、AIに何をさせるかだけではありません。

自分たちの業務を、AIに渡せる形まで整理できるかどうかです。

業務をAIに渡せる形まで整理できたとき、AIは単なる便利ツールではなく、事務所の業務改善を進めるための仕組みになるでしょう。

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