去る7月2日、佐賀県土地家屋調査士会様よりご招聘いただき、ミズウェルビーホール(佐賀市文化会館)の大会議室にてAI研修を担当させていただきました。
今回のテーマは、
土地家屋調査士とAIの境界線
どの業務をAIに任せるか、どの情報をAIに入力してよいか
です。
これまでも支部研修や青年会研修でAI研修を担当させていただいてきましたが、
今回は私にとって初めての本会研修でした。
正直、いつも以上に緊張しました。
当日は50名近い土地家屋調査士の先生方にご参加いただき、会場全体から、AIに対する関心の高さと、実務でどう扱うべきかを真剣に考えようとする空気を強く感じました。

きっかけは、noteを読んでくださっていた先生から
今回、佐賀県土地家屋調査士会様で研修をさせていただくきっかけは、私のnoteを読んでくださっていた先生から、本会へお声掛けいただいたことでした。
当日、その先生に実際にお会いし、どのような経緯で今回の研修につながったのかを伺いました。
普段、記事やnoteは「どこまで届いているのか」が見えにくい、というのが正直なところです。
しかし、今回のように発信をきっかけとして本会研修につながり、実際にお会いしてお話を聞けたことは、非常にありがたく、同時に驚きもありました。
某先生、ありがとうございました!
佐賀県土地家屋調査士会第1回全体研修会.png)
noteでは少し違った視点での記事があります
今回の中心テーマは「2つの境界線」
今回の研修では、単に「AIは便利です」「こんな使い方ができます」という話だけではなく、土地家屋調査士業務でAIを使ううえで避けて通れない線引き(境界線)を中心にお話ししました。
大きく分けると、次の2つです。
- 業務の境界線:どの業務をAIに任せるか、任せないか
- 情報の境界線:どの情報をAIに入力してよいか、入力してはいけないか
AIは、文章作成、資料整理、データ抽出、チェックリスト作成、写真整理の下準備など、PC上で処理する作業にはかなり入り込みやすくなっています。
一方で、測量、杭入れ、境界判断、隣地所有者への説明責任、登記の最終判断などをAIに置き換える話ではありません。
AIを使うか使わないかではなく、どこまで使い、どこから先は人間が確認し、資格者が責任を持つのか。この線引きを持ち帰っていただくことを、今回の研修のゴールにしました。
AIに任せやすい業務、任せてはいけない業務
研修の前半では、土地家屋調査士業務を、AIに任せやすい業務と、任せてはいけない業務に分けて整理しました。
AIに任せやすいのは、たとえば次のような業務です。
- 営業メールや取引先メールへの返信文作成
- 地積測量図の座標テキスト化
- 写真整理・調査報告書作成の下準備
- 事務所マニュアル、チェックリストの作成
- 新人・補助者向けの教育資料作成
いずれも、AIが最終判断をするというより、下書き・整理・抽出・変換・確認リスト化を担うイメージです。
逆に、AIに任せてはいけないのは、現場・判断・責任・対人対応にかかわる部分です。
AIはもっともらしい文章を作ることはできます。
しかし、境界を判断したり、現地の状況を確定したり、隣地所有者に対して責任ある説明をしたりすることはできません。
ここを混同すると、AI活用ではなく、単なる責任の所在不明になります。
個人情報の境界線:「有料版なら安全」とは限らない
今回の研修で特に重要なテーマとして扱ったのが、個人情報と守秘義務の問題です。
土地家屋調査士業務では、依頼者、隣地所有者、相続人、関係者、住所、地番、登記情報、紛争状況など、慎重に扱うべき情報が多くあります。
ここで注意すべきなのは、「有料版AIを使っているから、個人情報を入力してよい」とは限らないという点です。
個人向けの有料プランと、法人向けに管理・契約・データ利用条件を確認した環境は、分けて考える必要があります。
また、登記記録についても、「取得できる情報だから何でも公開情報として扱ってよい」と単純に考えるのは危険です。
公開制度上、取得できる情報であっても、それをAIに入力してよいかどうかは別問題です。
依頼者名、隣地所有者名、地番、紛争の有無、相続関係などが組み合わされば、案件や人物を特定できる情報になり得ます。
研修では、次のようなルールを事務所ごとに決める必要があるとお伝えしました。
- どのAIを使うか
- 誰がAIを使うか
- 入力してよい情報、入力してはいけない情報
- AI作成物を誰が確認するか
- AIを使った場合、どのように申告・記録するか
- 事務所指定以外の「野良AI」をどう扱うか
AIは便利ですが、士業実務では、便利さだけでは足りません。
情報管理と責任分界をセットで設計することが重要です。
当日のトラブル:PowerPointからChatGPTデモに切り替えると画面が消える
今回、反省点もありました。
後半でChatGPTを使ったデモを行おうと、PowerPointのスライドからChatGPT画面に切り替えようとしたところ、プロジェクター側の表示が意図どおりに出なくなるトラブルが発生しました。
何回やっても、うまく映らない。
原因は、私のパソコン側の外部ディスプレイ設定でした。
プロジェクター接続時に、画面の表示設定が「複製」ではなく、拡張表示側の状態になっており、PowerPointのスライドショー画面と、ChatGPTを操作する画面の表示先がずれていました。
本来であれば、研修前に、
- Windowsの投影設定が「複製」になっているか
- PowerPointのスライドショー表示先が正しいか
- PowerPointからブラウザへ切り替えたときに、プロジェクター側へ正しく映るか
まで確認しておくべきでした。
佐賀会の会長をはじめ、執行部の先生方にも一緒に原因を確認していただくことになり、ご迷惑をおかけしました。
それでも、皆さまに助けていただき、無事に設定を直してデモに進むことができました。
改めて、当日ご対応いただいた先生方に感謝申し上げます。
特に反応が大きかった「再立会い説明イラスト」の画像生成
トラブル後、無事にChatGPTのデモに進むことができました。
その中で、特に反応が良かったのが、境界確定測量における再立会いの必要性を説明するイラスト生成です。
土地家屋調査士の実務では、隣地所有者の方から、次のようなことを言われる場面があります。
「過去に立会いをしているのに、なぜもう一度立ち会う必要があるのか」
「杭があるのだから、もう立ち会わない」
こうした場面で、土地家屋調査士が説明したいのは、境界を勝手に変えるという話ではありません。
過去に確認された境界を否定するのではなく、数十年前の立会いから時間が経過しているため、当時の資料や杭の位置と、現在の現地状況を照らし合わせて、あらためて確認したい、ということです。
そこで、研修では次のようなプロンプトを配布し、ChatGPTを使える方には実際に画像生成を試していただきました。
私は土地家屋調査士です。
境界確定測量の依頼を受けて隣地挨拶に行きましたが、
お隣さんから
「過去に立会いをしているのに、なぜもう一度立ち会う必要がある?
杭があるのだから、二回立ち会わない」
と言われました。
お隣さんに、
「数十年前の立会いなので、再立会いが必要なこと」
「過去の測量結果の杭と位置が変わっているかもしれないので確認したいこと」
を分かりやすく解説するイラストを作成してください。

このデモでは、
「こういう画像生成の使い方は思いつかなかった」
というお声もありました。
AIで境界を判断するわけではありません。
AIで立会いを代替するわけでもありません。
しかし、相手に伝わりにくい実務上の説明を、図解やイラストで補助することはできます。
これは、土地家屋調査士業務におけるAI活用として、かなり実務的な使い方の一つだと感じています。
もちろん、画像内容にはハルシネーション(AIの嘘)が混ざる場合がありますので、必ず人間の目でチェックをしてください。
後半のChatGPTデモは駆け足に
後半では、ChatGPTを使った実演をいくつか行いました。
ただ、先ほどの投影トラブルもあり、予定していたデモの一部は駆け足になってしまいました。
それでも、実際にAIが文章を作る、説明文を整える、画像を生成する、業務のたたき台を作るという流れを見ていただくことで、AIを単なる流行語ではなく、実務の道具としてイメージしていただけたのではないかと思います。
研修では繰り返しお伝えしましたが、AIの出力はそのまま使うものではありません。
AIが作る → 人間が確認する → 資格者が責任を持つ。
この順番を崩さないことが、士業実務でAIを使ううえでの基本です。
アンケート結果から見えたこと
研修後のアンケートでは、回答いただいた範囲で、16名中15名の方が「とても満足」または「満足」を選んでくださいました。

また、印象に残ったテーマとしては、次のような項目が多く挙がっていました。
- AIに任せる業務/任せない業務の線引き
- 地積測量図の座標テキスト化
- 隣地対応・営業メールなどの文案作成
- 写真整理・調査報告書作成補助
- 個人向けプランと法人向けプランの違い
- 登記記録・個人情報をAIに入力するリスク
- AI作成物の確認責任・資格者責任
特に印象的だったのは、単に「AIで何ができるか」だけではなく、どこまで使ってよいのか、どう安全に使うのかへの関心が高かったことです。
一番驚いたのは、業務にAI活用をされている方が多かったことです。
今までのセミナーでは、AIを週1回以上使っている方は3割程度でしたが、今回は7割の方が業務でAIを週1回以上使っている、という結果になりました。
地域差なのか、土地家屋調査士全体でAIを使っている方が増えているのかは分かりませんが、既に「AIを使う人>AIを使わない人」となっているかもしれません。

AI活用は、今後さらに身近になると思います。
だからこそ、早い段階で事務所内のルールを決め、入力してよい情報・入力してはいけない情報を整理しておく必要があります。
佐賀で感じたこと
今回の佐賀研修は、私にとって初めての本会研修でした。
本会研修という場は、支部研修や勉強会とはまた違う緊張感があります。
その分、土地家屋調査士業界全体の中で、AIをどのように受け止め、どこまで実務に入れていくのかを考える機会として、大きな意味があったと感じています。
また、noteを読んでくださっていた先生からのお声掛けで本会研修につながったことも、非常に印象に残りました。
発信していたものが、どこかで誰かに届き、実際の研修につながる。
その流れを、今回の佐賀で実感しました。
他のセミナーレポートはこちら。
5支部・2青調会でのAI研修実績
最後に
佐賀県土地家屋調査士会の皆さま、このたびは貴重な機会をいただき、誠にありがとうございました。
また、当日ご参加いただいた先生方、運営いただいた執行部の先生方、投影トラブルの際に一緒に原因を確認してくださった先生方にも、改めて御礼申し上げます。
AIは、土地家屋調査士の仕事を奪うものではありません。
むしろ、書類作成、文章整理、情報整理、説明資料作成などの周辺業務を補助し、土地家屋調査士が本来向き合うべき現場、判断、依頼者対応に時間を戻すための道具です。
ただし、便利だからといって、無制限に使ってよいものでもありません。
どの業務をAIに任せるか。
どの情報をAIに入力してよいか。
AI作成物を誰が確認し、誰が責任を持つか。
この境界線を整理したうえで、安全に、実務に役立つ形でAIを使っていくことが重要です。
AIの杜さいたでは、土地家屋調査士向けのAI研修(本会研修・支部研修・事務所研修)や、AI導入に関する個別相談も承っております。
「AIを導入した方がよいのか分からない」
「個人情報が不安で踏み出せない」
「事務所内のAI利用ルールを作りたい」
そのような段階でも構いません。
土地家屋調査士業務に合わせて、安全な使い方から一緒に整理いたします。
関連して、土地家屋調査士業務でAIを安全に始める考え方は、こちらの記事でも整理しています。
おまけ
佐賀市内の有名店で開催いただいた懇親会では、玄界灘で取れたヤリイカの活き造りを始め、美味しい海の幸を食べさせていただきました。
ヤリイカの活き造りはなにより、「イカなのに白じゃない!!!透き通った透明(←混乱中)!!」な上、歯ごたえがあるのに柔らかくて、バクバクいただいてしまいましたw
皆さんもぜひ、食べに行ってみてください★

佐賀会の皆様、ご馳走様でした。