土地家屋調査士事務所でAIを使うとき、最初に決めるべきことは「便利なプロンプト」ではありません。
先に決めるべきなのは、AIに入力してよい情報、使うプラン、確認責任者、スタッフ利用ルールです。
この記事は、【AI×個人情報】3部作の第1部です。
第1部では、無料版ChatGPT・Plus・ChatGPT Businessの違いと、土地家屋調査士事務所でAIを安全に使うための最低限のルールを整理します。
第2部では、ChatGPT Businessを契約した場合でも、登記情報や依頼者情報をすべてAIに入力してよいわけではない理由を整理します。
ChatGPTは、送付状、メール文、議事録、研修資料、Excel関数、ブログ構成案など、土地家屋調査士事務所の事務作業に役立ちます。
しかし、何のルールもないまま、依頼者名、住所、地番、登記情報PDF、境界確認の具体的事情などを入力すると、情報漏えい、守秘義務、個人情報管理の問題につながるおそれがあります。
この記事での前提
料金、プラン名、機能、最低利用人数、学習利用の扱いは変更される可能性があります。契約前には、必ずOpenAI公式サイトの最新情報を確認してください。
この記事は、土地家屋調査士事務所がAI利用ルールを考えるための一般的な整理です。個別案件の法的判断や個人情報保護法上の最終判断は、必要に応じて専門家に確認してください。
まず確認:あなたの事務所は大丈夫ですか?
次の項目に1つでも当てはまる場合、AIの使い方を見直す必要があります。
危険度チェックリスト
- 依頼者名、住所、地番、登記情報PDFをChatGPT無料版やPlusに入力したことがある
- 事務員や補助者が、個人スマートフォンや個人アカウントでChatGPTを使っている
- ChatGPTの学習利用設定を確認していない
- 無料版、Plus、ChatGPT Businessの違いを説明できない
- 事務所内で「AIに入れてよい情報・入れてはいけない情報」を決めていない
- AIが作成した文章を、誰が確認するか決めていない
- 所長が知らないところで、スタッフがAIを使っている可能性がある
AI活用で見落とされやすいリスクは、AIの誤回答だけではありません。
より現実的に危ないのは、個人アカウントや無料版に、依頼者情報・登記情報・境界に関する具体的事情をそのまま入力してしまうことです。
この記事の結論
まず第1部では、ChatGPTを業務で使う前提として、無料版・Plus・Businessの違いと、事務所内で最低限決めておくべきルールを確認します。
- 無料版・Plusでも使える業務はあります。ただし、個人情報を入れない、案件を特定できる情報を匿名化する、学習利用設定を確認する、AI出力を人間が確認する、という条件が必要です。
- Plusは「便利になる」プランです。無料版より機能面では使いやすくなりますが、個人情報や業務秘密を入力してよい根拠が自動的に強くなるわけではありません。
- ChatGPT Businessは、組織として管理しやすい有力な選択肢です。ただし、Businessを契約すれば何でも入力してよいわけではありません。入力情報の線引きと確認体制が必要です。
- 一番重要なのは、プラン選びよりも所内ルールです。誰が使うか、何を入力してよいか、AI出力を誰が確認するかを決めないまま使うことが最も危険です。
- 野良AI対策が必要です。所長が知らないところで、スタッフが個人アカウントのAIに依頼者情報を入れてしまう状態を防ぐ必要があります。
ChatGPTのプラン選び:結論は「Business一択」ではない
土地家屋調査士が業務でAIを利用する場合、最初に考えるべきことは「どのプランが一番安全か」だけではありません。
実務上は、どの情報を入力するのか、誰が使うのか、誰が最終確認するのかによって、必要なプランと運用ルールが変わります。
たとえば、個人情報を入れない業務、匿名化した練習、一般的な文案作成、Excel関数の相談、研修資料の構成案などであれば、無料版・Plusでも十分に活用できます。
一方で、依頼者名、住所、地番、登記情報PDF、境界確認の具体的内容などを扱う場合は、無料版・Plusのまま安易に入力すべきではありません。
ChatGPT Businessが向いているケース
ChatGPT Businessは、組織としてAIを導入する場合の有力な選択肢です。
特に、次のような事務所では検討価値があります。
- 補助者を含めて複数人でAIを使う予定がある
- 所長がアカウントや利用環境を管理したい
- 個人アカウントでのAI利用を防ぎたい
- 依頼者の個人情報や機密情報を入力する可能性がある
- 個人情報管理や委託先管理について説明できる状態にしたい
ただし、Businessを契約しても、すべての情報を自由に入力してよいわけではありません。
Businessは、あくまで組織管理・契約・データ処理・管理機能の説明材料を整えやすいプランです。
入力してよい情報、伏せる情報、使ってはいけない場面は、事務所側で決める必要があります。
条件付きで使える:無料版・Plus
無料版・Plusは、業務では一切使ってはいけない、というわけではありません。
むしろ、AIに慣れる段階では、無料版・Plusから始める方が現実的な場合もあります。
ただし、無料版・Plusで使う場合は、以下の条件を守る必要があります。
- 対象業務:AIの試用、一般的な文章作成、Excel関数、個人情報を含まない業務
- 最低条件:学習利用設定を確認し、必要に応じてオプトアウトする
- 入力ルール:依頼者名、住所、地番、登記情報PDF、境界紛争や相続関係など、案件や個人が特定される情報は入れない
- 確認ルール:AIが作った文章は、そのまま外部に出さず、人間が確認する
無料版・Plusは、「個人情報を入れずに使う道具」として位置づけるなら、十分に使い道があります。
一方で、事務所として依頼者情報を含む業務データを扱う前提なら、ChatGPT Business等のビジネス向けプランや、別の安全なAI環境を検討する必要があります。
なぜ「ルールなしの無料版・Plus利用」は危険なのか?
ここで注意したいのは、無料版ChatGPTやPlusプランそのものが悪い、という話ではありません。
危険なのは、学習利用設定を確認せず、匿名化もせず、依頼者情報・住所・地番・登記情報PDF・境界確認の具体的内容などを、そのままAIに入力してしまうことです。
無料版・Plusでも、個人情報を入れない業務であれば十分に使えます。
たとえば、一般的な送付状のひな形、メール文の下書き、Excel関数、ブログ構成案、研修資料のたたき台などです。
一方で、土地家屋調査士事務所では、依頼者情報・登記情報・境界に関する相談内容など、守秘義務や個人情報管理と直結する情報を扱います。
そのため、AIを使う場合は「どのプランか」だけでなく、何を入力してよいか、誰が確認するか、スタッフが勝手に使わないためのルールを決める必要があります。
① 土地家屋調査士法上の「秘密を守る義務」
土地家屋調査士には、一般企業よりも重い守秘義務があります。
土地家屋調査士法 第24条の2(秘密を守る義務)
引用:e-GOV法令検索 土地家屋調査士法第24条の2より引用
調査士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。調査士でなくなつた後も、同様とする。
土地家屋調査士職務倫理規程 第12条(秘密保持等の義務)
引用:日本土地家屋調査士会連合会HP 土地家屋調査士職務倫理規程より引用
調査士は、正当な理由がなく、業務上知り得た秘密を漏らしてはならない。
2 調査士は、その使用人その他の従業者が、その業務上知り得た秘密を漏らさないように必要な措置を講じなければならない。
依頼者名、住所、地番、登記情報PDF、境界確認の具体的事情などは、調査士業務上知り得た秘密や個人情報に該当し得ます。
したがって、無料版・Plus・Businessのどれを使う場合でも、「入力してよい情報」と「入力してはいけない情報」を分ける必要があります。
② 個人向けサービスでは、学習利用設定の確認が必要
OpenAIの説明では、個人向けサービスでは、ユーザーの内容がモデル改善に使われる場合があり、オプトアウトも可能とされています。
つまり、無料版・Plusを使う場合は、「学習利用をOFFにしているか」「そもそも個人情報を入れていないか」を確認する必要があります。
特に、学習利用設定を確認しないまま依頼者情報を入力すると、依頼者の同意なく外部サービスに業務情報を提供したと評価されるリスクがあります。
一方で、学習利用をOFFにし、案件を特定できる情報を入れず、匿名化して使うのであれば、無料版・Plusでも活用できる業務はあります。
無料版・Plus・Businessの位置づけ
ChatGPTのプランを、個人情報・業務秘密の扱いという観点で整理すると、次のようになります。
| プラン | 主な位置づけ | 個人情報を扱う業務での考え方 |
| 無料版 | 個人向けの無料プラン | 個人情報・案件情報は原則入力しない。学習利用設定の確認と匿名化が最低条件。 |
| Plus | 個人向けの有料プラン | 機能面では無料版より使いやすい。ただし、個人情報を扱う業務では無料版と同じく慎重な運用が必要。 |
| Business | 組織・事業者向けのワークスペース | 管理機能、契約、DPA、データ非学習などを確認しやすい。ただし、何でも入力してよいわけではない。 |
| Enterprise | 大規模組織向け | 高度な管理・セキュリティ・契約条件を個別に確認する。通常の小規模事務所ではBusinessとの比較検討になる。 |
※料金・プラン名・最低席数・機能は変更される可能性があります。契約前には、必ずOpenAI公式サイトの最新情報を確認してください。
Plusは、無料版と比べて利用制限、ファイルアップロード、画像生成、データ分析などの面で使いやすくなるプランです。
ただし、Plusは「個人向けの有料プラン」であり、Businessのような組織管理やDPAを前提としたプランではありません。
つまり、Plusは便利になるプランですが、依頼者情報を入れてよい根拠が自動的に強くなるプランではない、ということです。
Businessで説明しやすくなること
ChatGPT Business等のビジネス向けプランでは、組織データがデフォルトで学習利用されないこと、管理者によるユーザー管理、契約条件、DPAなどを確認しやすくなります。
そのため、調査士業務の一部を外部ツールに処理させる「委託」として説明しやすくなります。
ただし、「委託」と整理できる可能性があること」と、「何を入力してもよいか」は別問題です。
委託先の監督、入力情報の選別、スタッフ利用ルール、最終確認者の設定まで含めて、初めて安全運用に近づきます。
個人情報の保護に関する法律 第25条(委託先の監督)
個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。
引用:e-GOV法令検索 個人情報の保護に関する法律 第25条より引用
DPAは「監督の材料」になる
DPAとは、Data Processing Addendumの略で、個人情報や業務データの処理を外部サービスに委託する際に、その処理方法・安全管理・役割分担などを定める補足契約です。
Business等のビジネス向けプランでは、DPAやサービス契約の適用関係、管理機能、学習利用に関する扱いを確認しやすくなります。
ただし、DPAがあるだけで監督義務が完全に終わるわけではありません。入力情報の選別、利用者管理、所内ルール、確認体制まで含めて運用する必要があります。
「無料版のままで大丈夫?」「Plusなら安全?」と迷っている先生へ
ChatGPTのプラン選びだけでなく、
事務所内ルールと責任分界を一緒に整理します
無料版・Plusで使ってよい業務、Businessを検討すべき場面、
事務員がAIを使う場合のルール、入力してよい情報の線引きを整理します。
※お問い合わせフォームへ移動します
無料版・Plusで使う場合の安全運用ルール
無料版・Plusでも、ルールを守れば十分に使える業務はあります。
特に、AIに慣れる段階では、いきなりBusinessを契約するより、まずは無料版・Plusで「個人情報を入れない業務」から試す方が現実的です。
ただし、以下のルールを事務所内で周知してから使いましょう。
- ルール①:固有名詞は記号に置き換える
- ルール②:個人情報を使わない業務で試す
- ルール③:AIの文章をそのまま外部に出さない
- ルール④:AIの利用範囲を決める
- ルール⑤:野良AIを防ぐ
ルール①:固有名詞は記号に置き換える
依頼者の氏名、具体的な住所、地番などの個人や案件を識別できる情報は、無料版・Plusには入力しないでください。
- NG例:「香川県〇〇市〇〇町1番2の土地について、所有者の田中太郎さんが……」
- OK例:「A県B市の土地について、所有者Cが……」
このように、個人や案件が特定できない形に置き換えれば、AIに相談できる範囲は広がります。
ルール②:個人情報を使わない業務で試す
具体的な事件情報を入力しなくても、AIの便利さは十分に体感できます。
まずは、以下のような個人情報を使わない業務で活用してください。
- 送付状・メールのひな形作成
例:「登記識別情報を郵送する際の、丁寧な送付状の文案を書いて」 - ブログ・セミナー資料の構成案
例:「境界確定の重要性について、一般市民向けの分かりやすいブログ記事の構成を考えて」 - Excel関数の作成
例:「A列の日付から和暦を自動計算するExcel関数を教えて」 - 一般的な文章の言い換え
例:「この文章を、依頼者向けにやわらかく言い換えて」
調査士業務で使いやすいプロンプトは、調査士用プロンプト一覧にまとめています。
ルール③:AIの文章をそのまま外部に出さない
無料版・Plusで作った文章に限らず、AIの出力は必ず人間が確認してください。
特に、依頼者、隣接所有者、役所、取引先に送る文章は、AIが作ったものをそのまま送信してはいけません。
AIは下書き担当、人間は確認担当。この役割分担を崩さないことが重要です。
ルール④:AIの利用範囲を決める
AIを使う場合は、使ってよい業務を限定してください。
- 一般的なメール文の下書き
- 個人情報を含まない送付状のひな形
- 誤字脱字チェック
- Excel関数の相談
- 個人情報を含まない会議メモの整理
- 研修資料やブログ構成案の作成
特に、境界紛争、相続関係、クレーム対応などの個別事情は、無料版・Plusには入力しないルールにすべきです。
ルール⑤:野良AIを防ぐ
野良AIとは、事務所が許可していないAIを、スタッフが自己判断で使っている状態です。
たとえば、事務員が個人スマートフォンのChatGPT無料版に、依頼者名や地番を入れてメール文を作っている場合です。
本人に悪気がなくても、事務所としては重大なリスクになります。
野良AIを防ぐためには、単に「使うな」と禁止するだけでは不十分です。以下を決めておく必要があります。
- 使ってよいAIを決める
- 使ってよい業務を決める
- 入力してはいけない情報を明示する
- AIで作った文章は誰が確認するか決める
- 迷ったときは入力せず、所長や責任者に確認するルールにする
AI利用は、禁止するよりも、安全に使える範囲を明確にする方が現実的です。
無料特典
調査士業務向けAI活用情報を無料で受け取れます
「まずAIを安全に試したい」「個人情報を入れずに使えるプロンプトから始めたい」という方向けに、 調査士業務で使いやすいカスタムGPTやプロンプトを案内しています。
- 隣地挨拶状作成カスタムGPT
- 隣地立会シミュレーター
- 地積測量図を3分でテキスト化するプロンプト
- 毎週水曜日の「調査士×AI」活用メルマガ
結論とアクションプラン
AIは、正しく使えば土地家屋調査士業務を効率化する強力な道具になります。
ただし、使い方を誤れば、情報漏えい、守秘義務違反、個人情報管理の問題、誤回答の外部送信などにつながるおそれがあります。
今回の結論は、「無料版やPlusを一切使うな」ではありません。
無料版・Plusでも、個人情報を入れず、学習利用設定を確認し、匿名化し、人間確認を徹底すれば、使える業務はあります。
一方で、依頼者情報や業務データを扱う前提で、複数人でAIを使うなら、ChatGPT Business等のビジネス向けプランを検討する価値があります。
あなたが今すぐやるべきこと
- 無料版・Plusで始めるなら:まず学習利用設定を確認する。そのうえで、個人情報・住所・地番・登記情報PDF・案件が特定される情報は入力しないルールにする。
- Plusを使うなら:無料版より利用制限や機能面では有利。ただし、個人情報の取り扱いについては無料版と同じく慎重に運用する。
- 事務所で使うなら:スタッフが使ってよい業務、入力してはいけない情報、AI出力を確認する責任者を決める。
- 依頼者情報を扱う可能性があるなら:ChatGPT Business等のビジネス向けプランを検討する。ただし、Businessでも入力情報の選別と確認体制は必要。
- 迷ったら:「これはAIに入れてよい情報か?」を所長・資格者が判断する。事務員や補助者が自己判断で入力しない運用にする。
記事を読んで「AIの個人情報、ウチは大丈夫?」と思った先生へ
無料版・Plus・Businessの違いだけでなく、
事務所内のAI利用ルールを一緒に整理します
「無料版のままでよいのか」「Plusなら大丈夫なのか」
「事務員にどこまでAIを使わせてよいのか」など、
貴事務所の状況に合わせて整理します。
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次回予告:第2部
第2部では、ChatGPT Businessを契約した場合でも、登記情報や依頼者情報をすべてAIに入れてよいわけではないという点を整理します。
Business等のビジネス向けプランは、組織として安全運用しやすい環境を整えるうえで有力です。しかし、有料プランを契約したからといって、すべての情報を無条件に入力してよいわけではありません。
次回は、土地家屋調査士がAIに入力する情報を、赤・黄・緑の3色に分けて整理する「情報トリアージ」について解説します。
第2部:【AI×個人情報】第2部 ChatGPT Businessプランなら、登記情報も依頼者情報も、全部AIに入れて大丈夫?