AI×個人情報【第1部】「無料版ChatGPT」を業務で使う落とし穴。土地家屋調査士が選ぶべきAIプランとは?

AI×個人情報【第1部】「無料版ChatGPT」を業務で使う落とし穴。土地家屋調査士が選ぶべきAIプランとは?

そのAI利用、個人情報対策は大丈夫ですか?

「とりあえず無料で試してみよう」

その気軽な一歩が、土地家屋調査士としての足元をすくうことになるかもしれません。

業務で生成AI(ChatGPT等)を利用する場合、最も重要なのはプロンプト(指示文)の技術ではなく、「どの契約プランで利用するか」という入り口の選択です。

現在、ChatGPTの料金ページには、「無料版」や「Business無料版」が提示されています。「ビジネス用としても無料版が使えるなら、それで十分では?」と思われるかもしれません。

土地家屋調査士のためのAI運用
個人情報を守る設定から整えます

プラン選定・学習OFF・入力ルールを30分で整理いたします。

30分無料相談

(免責事項)本記事は、2026年2月時点でのOpenAI社規約、個人情報保護法、および関連ガイドラインに基づき、AI導入コンサルタントの視点から「実務上推奨されるセキュリティ対策」を解説したものです。
土地家屋調査士事務所におけるAI活用のリスクを最小化するための技術的・運用的な提案を行っておりますが、個別の事案における法律の適用や解釈の正当性を保証するものではありません。
具体的な法律相談や、個別の紛争に関する法的判断につきましては、弁護士等の法律専門家にご相談いただくか、各所属会の見解をご参照ください。

1. 【結論】実務利用の適格プランとコスト

土地家屋調査士が業務でAIを利用する場合、以下のプランの違いを理解することが、各種法令および職務倫理規程を守るための、実務上の重要な防衛線と言えます。

推奨:ChatGPT Business(有料ビジネスプラン)

組織としてAIを導入する場合のスタンダードな有料プランです。

  • 対象: 職員を雇用している事務所、またはセキュリティを重視する個人事務所。
  • 料金: 1ユーザーあたり 月額 25ドル(年払い) または 30ドル(月払い)
  • 契約条件: 最低 2ユーザー(2席)以上からの契約が必須
    • ※ここが重要です。1人事務所であっても、最低2アカウント分の料金(月額合計50~60ドル/約7,500円~9,000円)が発生します。「所長用」+「事務員用(または予備)」として契約する必要があります。
  • 適用規約:「OpenAI サービス契約(Service Terms)」
    • DPA(データ処理契約)が含まれ、機密保持義務が明記されています。

条件付:無料版(Free) / Plus(個人有料)

試験的な利用や、個人情報の入力を一切行わない場合に限られます。

  • 対象: AIの試用、個人情報を扱わない業務。
  • 料金: 無料 または 月額20ドル
  • 契約条件: 1ユーザーから利用可能。
  • 適用規約:「利用規約(Terms of Use)」
    • 消費者向けの規約であり、DPAは含まれません。設定で学習利用を「OFF」にすることが最低条件です。

2. なぜ「デフォルトの無料版」は業務NGなのか?(法的検証)

なぜ無料版が危険なのか。それは、土地家屋調査士法が課す「重い守秘義務」と、無料版AIの「データの使われ方」が法的に両立しないからです。

① 土地家屋調査士法上の「秘密を守る義務」

我々には、一般企業よりも厳しい守秘義務が課せられています。

土地家屋調査士法 第24条の2(秘密を守る義務) 調査士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。調査士でなくなつた後も、同様とする。

引用:e-GOV法令検索 土地家屋調査士法第24条の2 より引用

土地家屋調査士職務倫理規程 第12条(秘密保持等の義務) 調査士は、正当な理由がなく、業務上知り得た秘密を漏らしてはならない。 2 調査士は、その使用人その他の従業者が、その業務上知り得た秘密を漏らさないように必要な措置を講じなければならない。

引用:日本土地家屋調査士連合会HP 土地家屋調査士倫理規定 より

【検証】

無料版(学習ON)に依頼者の情報を入力することは、OpenAI社という第三者に対し、AIの学習データとして利用させる目的で情報を「提供」することになります。

これは、依頼者の同意(正当な理由)がない限り、「秘密を漏らした(目的外の提供)」と判断されるリスクが極めて高い行為です。

② 個人情報保護法上の「第三者提供」と「委託」

さらに、個人情報保護法の観点からも検証します。

比較項目① 第三者提供(原則NG)② 委託(OK)
該当プラン無料版(学習ON)Businessプラン(学習OFF)
データの利用目的OpenAIのため(AIモデルの機械学習・精度向上)あなた(調査士)のため(文書作成・翻訳等のデータ処理)
根拠条文法第27条第1項法第27条第5項第1号
本人の同意必要不要

無料版のリスク(法第27条)

無料版で学習される設定の場合、データはOpenAIの資産として利用されます。
これは「第三者提供」にあたり、原則として本人の事前の同意が必要です。

依頼者に無断で入力すれば、個人情報保護法違反となる可能性が高いと考えられます。

有料版の安全性(法第25条の遵守)

一方、Businessプランは「学習しない」契約であるため、調査士業務の一部(入力補助等)を外部ツールに行わせる「委託」と整理できます。

「委託」であれば本人の同意は不要ですが、代わりに監督義務が生じます。

個人情報の保護に関する法律 第25条(委託先の監督)

個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。

この「監督義務」を果たすためには、セキュリティが担保された契約(Businessプラン)を結ぶことが、最も確実な手段となります。

3. 【決定的な差】情報漏えい時の責任条項

「無料版でもオプトアウト(学習拒否)設定すれば、委託になるのでは?」法解釈上はそう主張できるかもしれません。

しかし、契約書の「中身」を見ると、万が一、OpenAI側から情報が漏れたとき、誰がどう責任を取るのか? この点において、両者には埋めがたい溝があります。

「利用規約」と「OpenAIサービス契約」

ChatGPTなど、OpenAIのサービスを利用する際、プランによって適用される契約が異なります。

Team・Enterpriseプラン(組織・企業向け): 「OpenAI サービス契約 (Service Terms)」などのビジネス向け契約が適用されます。

無料版・Plusプラン(個人向け): 「利用規約 (Terms of Use)」が適用されます。

簡単なイメージとして、前者は「しっかりしたビジネス上の契約(事業者間取引)」、後者は「うち(OpenAI)のサービスを使うなら、このルールに従ってね(一般消費者向け)」という違いがあります。

では、その中身はどう違うのでしょうか?

① 「機密保持(Confidentiality)」の有無

ここが最大の違いです。OpenAI社が「秘密を守る法的義務」を負っているかどうかの差です。

無料版・Plus(利用規約:Terms of Use)

内容:原則として存在しません。それどころか、「現状有姿(As-Is)」での提供であり、いかなる保証もしないと明記されています。

利用規約 「保証の否認」 ※要旨「本サービスは『現状有姿』で提供されます。当社は、本サービスに関していかなる保証(明示、黙示を問わず)も行いません。」

参照元:利用規約|OpenAI 保証の否認 より参照 ※翻訳により項番がずれるため項目で表示しています

Businessプラン(サービス契約:Service Terms)

内容:「機密保持(Confidentiality)」条項が存在します。OpenAIは、顧客(調査士)のデータを「機密情報」として扱い、許可なく第三者に開示しない法的義務を負います。

サービス契約 「機密保持」 ※要旨「受領者(OpenAI)は、本契約の履行に必要な場合を除き、開示者(調査士)の機密情報を使用せず、第三者に開示しません。(中略)機密情報を保護するために、少なくとも自己の類似の機密情報を保護するのと同程度の注意義務を払います。」

参照元:サービス利用規約|OpenAI 機密保持 より参照 ※翻訳により項番がずれるため項目で表示しています

結論:無料版での漏えいは「利用者の自己責任」ですが、Businessプランでの漏えいはOpenAI側の「契約違反(債務不履行)」となり、損害賠償請求の根拠となりうるでしょう。

② 「責任の制限」と「補償」の現実

では、もし事故が起きた場合、どれだけの補償が受けられるのでしょうか。

無料版は「100ドル(約1.5万円)」が上限

どれだけ甚大な被害が出ても、利用規約上の賠償上限はわずか100ドルです。

利用規約 「責任の制限」 ※要旨「法が認める最大限の範囲において(中略)損害賠償の総額は、100ドルまたは請求の前の12か月間にお客様が本サービスに対して支払った金額のいずれか高い方を上限とします。」

参照元:利用規約|OpenAI 責任の制限 より参照 ※翻訳により項番がずれるため項目で表示しています

「情報漏えい」の自動補償条項はない

Businessプラン(サービス契約 第3条)には「補償(Indemnification)」という見出しがありますが、これは「第三者の知的財産権の侵害」に関する補償であり、「情報漏えい事故」そのものを無条件に補償するものではありません。

つまり、情報事故については「自動的な補償」があるわけではなく、あくまで「機密保持義務違反(第6条)」に基づく「損害賠償請求」という形で責任を追及することになります。

だからこそ、「機密保持義務」が契約に含まれているかどうかが、調査士としての「委託先の監督」を証明する生命線となるのです。

4. DPA(データ処理契約)という「監督の証」

さらに決定的なのが、DPA(Data Processing Addendum)の存在です。

項目無料版・PlusBusinessプラン(有料)
適用されるルール利用規約(Terms of Use)サービス契約(Service Terms)
契約の性質消費者向け(BtoC)事業者間契約(BtoB)
DPA(データ処理契約)なしあり (DPA適用)
機密保持義務なし(保証否認)あり (第6条)
責任の上限100ドル契約金額ベース

DPA(データ処理契約)とは、個人情報保護法やGDPRなどの法令に基づき、データの処理を外部に委託する際に結ぶべき補足契約のことです。「委託先(OpenAI)は、委託元(調査士)の指示に従ってのみデータを処理し、適切なセキュリティ対策を講じる」ことを法的に約束するものです。

  • 無料版: DPAが存在しないため、「どうやって監督しているのか?」と問われた際に、客観的な証拠を提示することが極めて困難です。
  • Businessプラン: BusinessプランにはDPAが自動的に適用されます。「DPAを締結している」という事実そのものが、監督義務(法第25条)を果たしている強力な証明(エビデンス)になります。

5. それでも「無料版」で試したい場合の【安全運用ルール】

「まずはAIがどんなものか知りたい。いきなり有料契約(月額約8,000円~)はハードルが高い」

そうお考えの方のために、まだ契約をアップグレードしていない段階で、安全にChatGPTを「お試し」するための絶対遵守ルールをご提案します。

ルール①:固有名詞は「記号」に置き換える(匿名化)

依頼者の氏名、具体的な住所、地番などの「個人を識別できる情報(個人情報)」は、一文字たりとも入力してはいけません

  • NG例: 「東京都千代田区〇〇1-1の土地について、所有者の田中太郎さんが…」
  • OK例:A県B市の土地について、所有者の依頼者Cが…」

このように完全に匿名化された状態であれば、そもそも「個人データ」にも「秘密」にも該当しないため、法的な提供制限の対象外となります。

ルール②:「個人情報を使わない業務」で試す

具体的な事件簿を入力しなくても、AIの威力は体感できます。まずは以下のような、リスクゼロの業務で活用してみてください。

  • 送付状・メールのひながた作成
    • 「登記識別情報を郵送する際の、丁寧な送付状の文案を書いて」
  • ブログ・セミナー資料の構成案
    • 「『境界確定の重要性』について、一般市民向けの分かりやすいブログ記事の構成を考えて」
  • Excel関数の作成
    • 「A列の日付から『和暦』を自動計算するExcel関数を教えて」

調査士用プロンプト作成ツール(隣地挨拶状作成、立会いお礼状作成、クレーム対応等)はこちら↓から

調査士業務に使えるプロンプトを試してみる

6. 結論とアクションプラン

AIは、正しく使えば土地家屋調査士業務を劇的に変える「名刀」になりますが、使い方を誤れば己を傷つける「凶器」にもなりかねません。

あなたが今すぐやるべきこと

  1. 本格導入するなら:事務所のセキュリティを守るため、「ChatGPT Business(最低2席~)」を契約する。これがAIを利用する土地家屋調査士としての、「標準装備」と言えるでしょう。
  2. 無料版・個人有料版(Plus)を使うなら:今すぐ設定画面(設定 > データコントロール)を開き、「すべての人のためにモデルを改善する」をOFFにする。そして、「個人情報は一文字も入れない」ことを意識して利用する。

次回予告

「Businessプランを契約した。これで登記情報も依頼者の秘密も、全部AIに入れていいのか?」

その答えは「半分正解で、半分間違い」と考えられます。
有料版契約があるからといって、手放しで全ての情報を入力するのはリスクがあります。

次回は、有料版ユーザーが陥りがちな「委託の拡大解釈」にメスを入れます。

  • 登記情報PDFをそのまま読み込ませていい「作業」とは?
  • 逆に、有料版でも絶対に伏せ字にしなければならない「相談」とは?

「公開情報だから大丈夫」という油断が、命取りになることもあります。

土地家屋調査士として守るべき「入力情報の選別(トリアージ)基準」と、現場で使える「黒塗りの鉄則」について解説します。

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